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子供の領分 0・プロローグ

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麗らかな秋の日のSPR本部。
 正式名称をThe Society for Psychical Researchといい、世界的な心霊研究の権威でもある。
 その研究室の一つ、森まどかをチーフとするチームが主に使用している部屋のデスクに、一枚の薄っぺらい紙が乗っていた。そこら辺のメモ帳をちょっと丁寧に千切りました、という程度の実に粗末な紙だ。細めの女性的な筆記体で短い文面が綴られている。
 不幸な事に、その紙を発見したのは徹夜明けの研究員だった。期限に間に合わせる為に必死で調査結果をまとめ上げ、提出してきたばかり。疲労がピークに達しているタイミングである。
「あら……?」
 まどかのデスクに置かれた書置きを何とはなしに覗き込んで、彼女は悲鳴を上げた。何事かと近くにいた研究員やメカニックが集まってくる。
 幸い近くまで来ていたまどかもすぐ駆けつけた。なんとか野次馬を押し退けて彼女の手から書置きを受け取るなり、“あの”森まどかが頭を抱えた。

『ちょっと日本分室まで行ってきます。
 もしかしたら長居する事になるかも。――リュイス』

 SPR日本分室は最近設立されたばかりだが、オリヴァー=デイヴィス博士が所長を務め、興味深い研究データを次々に発信している注目の分室でもある。大体、イギリスはケンブリッジから日本の渋谷までどれほどの時間がかかると思っているのだろう、書置きを残した張本人は。まるで散歩に出るような気軽さだ。
 一度盛大に溜息をつくと、まどかは慰めるように女性調査員の肩を叩いた。
「……とりあえず、ナルに電話しましょう」