The true face of the princess
自分にとってその事態は予測すらし得ないものだった。
The true face of the princess
私が黒の教団にやってきて1ヶ月くらい経った頃だろうか。
まだ稚児顔の面影を残す私に、数名の男達が暴行を加えてきた。
彼らが解雇された後、その行動に至った要因は上司からのストレスだったと聞いた。
その頃からか。私は自分が女であることが怖くなっていた。
当時の自分の小さな頭を振り絞って考え出した結論が自らの身を男に装うこと。
そう自分の性を隠し続けてはや5年・・・
「コムイ・・・どうしてくれんだよ・・?」
「あはは。バレちゃったものはしょうがないよ♪」
本当に爽やかすぎるほどの笑顔をこちらに向けて返事をする人―――コムイ。
彼は、今、私にとって重大すぎる事をみんなに告げた。
時は遡り、数十分前。
「今回の任務では、イタリアのシチリア島にいってもらうよ」
「へぇ~。また楽しそうなとこ行くんさなぁー」
「事態は深刻なんだ。アクマが大量発生してファインダーや街の人に危害を加えている」
「兄さん。じゃあ、この任務は私とラビと神田の3人で?」
「そんなに大した任務じゃねぇんだ。1人で十分だろ」
「ん。とりあえず、緊急事態に備えて4人でいってもらうからね!」
「「4人?」」
リナリーとラビは顔を見合わせた。
その場にいたエクソシストは3人だけだったからである。
「悪ィ。ちょっと用事があって・・・」
私は滅多に遅れることは無かったが、今日、この日だけは遅刻してしまった。
既に皆は任務の詳細を聞いているようだったので、後でラビにでも聞こうと考えていた、その時。
「ところで、ルナ君、どうする?」
「?」
「今回の任務はルナ君にとって初めての複数の任務なんだよねー」
「おぉ。ルナ、何人かでやる任務初めてなんさ?」
「ああ。今まで、全部1人のだったからな」
「そこで問題なのが、部屋割り!」
「なんで?兄さん」
「みんな・・・今まで黙ってたけど、実はルナ君は女の子なんだ・・・!」
「「「!!!??」」」
そして、現在に至る。
(今まで黙ってたのは悪かったとは思うけど・・・)
別に騙しているつもりは無かった。
ただ、幼少期に植え付けられた記憶が今の自分を形づくっていた。
「ルナっ!?それ、本当!?」
「「・・・」」
リナリーは目を大きくして私の方を見て言った。
神田とラビも目を丸くしながら私を見ていた。
(・・・?ラビが何も言わないなんて珍しいな)
「ルナ・・・。どうして言ってくれなかったの!?何年も・・・そうやって苦しんできたの?」
「いや、別に苦しいとかじゃなくてだな・・っ」
「コラっ!男言葉使わないのっ!アナタはれっきとした女の子なのよ!?」
「そうさー、ルナ!」
「そんな・・・急に言われてもなぁー・・・」
なんせ、教団に入ってからこの5年間、ずっと使ってきた言葉遣い。
そんなすぐに直せる筈も無かった。
「そういえば、ルナちゃんには僕にしか見せた事のない本当の姿があったよね?」
私は恨みと怒りを込めた顔をコムイへ向けた。
これ以上、厄介事を増やさないで欲しいと想いを込めて。
「何それ!?ちょー見たい!!なぁ、ユウー?」
「フン・・・」
「コムイ!これ以上言ったら・・・」
最初から、ばれる運命だったのだろう。
リナリーは顔を輝かせながらこちらを向いていた。
逃げたいという衝動に駆られたが逃げる事も出来ず、断念した。
もう、どうにでもなれと勢いに任せて、カツラと身につけている団服を取った。
「・・・うっわー。超美人さ!!ルナ!!!」
「ちょっと、ルナ!?何で今まで男装なんかしてたの!?」
「だよね、だよねー?僕も前々から思ってたんだよー♪」
「コムイ・・・」
予想とは全く違った反応に驚いた。
自分がみんなに評される事を拒んできたからだった。
「俺・・・どこか変か?」
「全く!そんなことないわよ!ルナ!」
「・・・そっか」
何年振りだろう。自然と顔に笑みが零れた気がした。
その時、周りの空気が自分と異なる温度に変わっていったのを私は感じ取れなかった。
「たいてい俺を初めて見たヤツは固まるんだが、
今まで唯一固まんなかったのはコムイだけだな」
「「・・かわいーーーっ!ルナっっ!!」」
女として生きていく、これから私の中に刻まれてゆく時間に、
私はそっと期待しながら、4人と任務先へ向かった。
作品名:The true face of the princess 作家名:大奈 朱鳥