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……自制が効かない、と、思いはするのだ。しかし、思うのみである。頭の片隅で浮かべる自嘲も侮蔑も政宗の行動になんの影響も及ぼさない。視野が狭まる。視界を占領される。そうして手のひらがじっとりと熱を持ち始めれば、もう終わりだ。理性の制御を離れて、こころが勝手をする。我慢を棄てたからだは駄々をこねる子どもと同じだ。欲しいだけ欲しがる。
男が帰ってきたのは久々のことだった。前に会った日を数えれば両手の指を超える程度には久しい。バイトだの恩師の手伝いだの遠征だのであちこちを飛び回っていた男に、別段文句があるわけでもない。政宗のいない間に帰っていたこともある。政宗自身、ひとところには居られぬ性質であり、そういう生き物だ。すれ違いが続いての２週間と少し。そう多くはないが、ありえないでもない。
そうして再会した男は今、政宗に背を向けていた。床に胡座をかき、テーブルに何枚もの資料を広げ、ああでもないこうでもないとぶつぶつ呟きながら、不器用な手つきでキーボードを叩いている。何を作っているのかは政宗の興味の及ぶところではない。考えるべきはここに政宗がおり、少し手を伸ばせば尻尾髪が掴める場所に男がおり、なおかつ政宗が寝転んでいるのが男のベッドであることで、さらに重要なのは政宗が餓えているということだった。
｢……なあ、｣
｢もうしばらく｣
ぴしゃり、と遮られては口を開くこともできない。ひとつ息を吐いて、密かに伸ばしていた手を戻し己を慰めるように腕を摩った。背後でもぞもぞ動かれても気にならないのか、振り向きもしない男は政宗をわかっていない、と思う。こうしている間にも渇いていくのを感じる。熱が欲しい。いっそ噛んで舐って口付けて抗えないほどに引きずり込んでやろうかという誘惑に駆られ、また今すぐに部屋を飛び出して別の誰かを求めようかとも考え、それが賢い判断だと多くのものが諸手を挙げるのに目を眇めて、迷った挙げ句に枕に顔を擦りつけてそれらの選択をすべて棄てた。寝返りを打って壁を向く。脚を折って丸くなりながら吐き出した嘆息は自分に向けてだ。
熱が欲しい。
それもただ奪うだけではなく、求めるだけ求められたい。でなければ満足できない。そんなふうに考えることが、作りかえられたことが、ひどくみっともなく情けなかった。
己に耐えかねて奥歯を噛む。惨めさから逃げるように背を曲げ小さく縮こまる。理性と本能とこころが乖離した、収拾が付けられないこの状態が何よりも嫌いだった。腹の奥から込み上げるものを持て余してシーツを掴む。薄い布を握れば皺が寄る。ぐしゃ、と潰れたそれをしばらく眺めていると唐突に、身の内側で、何かがきれた。

――政宗が飛び起きたのと振り返った幸村がその背を押さえつけたのは殆ど同時だった。

｢もう、しばらく、我慢してくだされ｣
教え込むように落とされた声に震えた。爪痕が残りそうなほどに背を押さえる指は痛い。掌は正確に中心を捉えて、撥ね付けることは許されなかった。息を呑み、再びシーツを握りしめる。眦が熱くなった。
ちくしょう、と小さく吐き捨てれば頭を撫でられる。申し訳ない、しかし、非はそなたの方に。宥める手は甘さはあってもひとつも悪びれていない。同じ生き物だと考えるなと、何度言っても通じない。このままでは死んでしまう。いきものとしてよりも、政宗の矜持が。政宗そのものとも言える誇りが。しかしそれを、この男は笑って歓迎するだろう。それが自然な形だと、肌を合わせる相手はひとりでいいのだと、繰り返す男である。
ちくしょう、と再度吐き捨てた。それでもこの男から離れようとしない、自分への悪態だった。









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伊達は部屋を出て別の相手を探しに行こうとして真田の本能に阻止されたんです(分かりにくい)(すみません)
と言うわけで、おあずけをくらうインキュバス伊達(調教済み)でした。
お粗末！