水も滴る
公園でばったりでくわした静雄さんにどうしたんだと問われ、僕は自分の身に起こった事を素直に話した。すると、煙草を吸いながら聞いていた静雄さんに案の定というか、想像通りの言葉を投げかけられ、僕は笑うしかなかった。
「……まあ、送水口が破裂するなんて事、結構ザラだからよ。あんま気にすんな」
「ザラなんですか」
「俺も何回か水かぶった事あるし」
「それは、もしかしなくても、自販機とか標識とかで送水口を破壊したからなのではないですか」
言うと、静雄さんは押し黙った。図星らしい。
僕はため息をつく。とりあえずびしょ濡れのこの格好をどうにかするのは諦めたけれど、できれば知り合いには会いたくなかった。こんなみっともない姿、見られるのは良い気がしない。
出会っていたのが静雄さんではなく正臣だったら、盛大に笑われていた事だろう。そう考えると、出くわしたのが静雄さんである意味ラッキーだったのかもしれない。
「その格好のまま帰んのか」
「はい。こうなったらもう、仕方ないですから」
「そっか」
それじゃあ、失礼します、そう言って静雄さんに頭を下げようとすると、静雄さんはすたすたと歩き始めた。どこに行くのかと見送っていると、静雄さんは公共の水飲み場まで歩いていく。
水でも飲むのかなと見送っていると、静雄さんがその蛇口に手をかけた。そして、
バキッ
「…………しずおさん、」
なにしてるんですか、と、問いかけるために開いた唇は中途半端な形で止まる。
ひねる力が強すぎたらしい、蛇口は見事にぽっきりと根元から取れ、ざばざばと水を撒き散らしていた。
そしてその水の中で立ちすくむ静雄さんが、こちらを振り返る。
「家まで送ってく」
これは、もしかしなくても。
(気を遣って、くれた?)
だからと言って、静雄さんまで濡れる事無いのに。そう言うと、慣れてるから平気だと的外れな返答を返された。
「静雄さんって、良い人ですね」
「はじめて言われたぞ、それ」
びしょ濡れでも、笑う静雄さんはとてもかっこよかった。
ただ、静雄さんがこわした水飲み場の水を止めるのには、とても苦労したけれど。