バイク
「間抜けな顔」
そう言って笑う臨也さんは、いつものファーコートを着ていなかった。視覚的に暑苦しいだけだからそれはありがたいけれど、そんなものよりもずっと目を引かれるそれ。
「臨也さんって、」
「ん?」
「バイク、乗れたんですね」
無免許ですか?と尋ねると失礼な、ちゃんと免許持ってるよと笑って臨也さんは答えた。その発言の真偽は、定かではない。
「帝人君を乗せるんだ、無謀な事はしないよ」
「ほんとですか?」
「疑り深いなあ」
誰のせいだと、とは言わなかった。この人に口での応酬は勝てる気がしない。
僕は投げてよこされたヘルメットを被ると、おずおずと臨也さんの後ろに跨った。
「ちゃんとつかまっててね」
臨也さんがバイクを発進させる。ぎゅっとしがみついて風を感じながら、流れる景色に目を凝らした。
なんだか、臨也さんの背中につかまっている自分が、酷く現実味のない事のように思えて、おかしかった。
「いざやさん、」
「なに、みかどくん」
「バイクにのってる臨也さん、ちょっとかっこいいです」
瞬間、バイクが盛大に蛇行した。