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混じり合う昼と夜

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誰かの話声で、幽の意識は浮上した。その瞬間、頭をがんがんと揺さぶる鈍い痛みと、体全体に漂う怠慢感のようなずっしりとした感覚に、盛大に眉を顰める。
言う事をきかない体を両腕を突っ張ることで無理矢理起きあがらせると、体の上にかかっていた何かがはらりと落ちた。定まらない視界をそれでもなんとか凝らして見つめる。体の上にかかっていたのは、染み一つない上等な白いスーツの上着だった。

「ああ、起きましたか」

人の声すら、今の幽にとっては毒のように脳を揺さぶる原因となりうる。痛みを増した頭を何とか無視し、声の方へ思い首を巡らせる。定まらない視界、それでも捉えた辺りの風景はお世辞にもきれいとは言えない、まるで廃墟の様に荒れ果てた工場の内部のようだった。
どうしてこんな場所で自分は寝ているのか、一瞬浮かんだ疑問は、しかし頭痛によりすぐに霧散する。記憶を手繰る事すら億劫な幽の耳に、こつこつと革靴がコンクリートを踏む音が聞こえてきた。

「あまり顔色が優れませんね・・・・・・今迎えを呼びましたから、もうしばらく横になっていてはどうですか」
「・・・あなた、は」

近づいてきた男を見上げる。赤いシャツに染み一つない白いスーツを履いた、年嵩の男だった。こんな暗闇の中で目立つその白い服に、幽は自分に掛けられていた上着がこの男の物なのだと悟る。
返そうと上着を掴むも、思うように力が入らない事に気がついた。

「まあ、私の事はどうでもいいです。それよりも、自分が何故こんな場所で気を失っているのか、覚えていますか」
「・・・いいえ」

素直に否定する。本来ならば口ではなく首を振ることで否定の意を示したかったが、今首を振ればこの頭痛がますます酷くなる気がして、幽は滅多に開く事のない唇を開く。

「貴方は有名人だ。良い意味でも悪い意味でも、人目につく。今回は悪い意味で目をつけられてしまった」
「・・・」
「何処かの組の末端の末端でしょう、高給取りな貴方を薬漬けにして金をむせびとろうとした・・・そんなところでしょうね」

男はズボンのポケットに握り締めていた携帯を突っ込むと、しゃがみ込み幽の体にかかっている上着の内ポケットを探った。煙草の箱を取り出し再び立ち上がった男は、慣れた動作で火をつける。
上着を取り上げる事はしない男を、幽はぼんやりと見上げた。

「・・・なぜ、助けてくれたんですか」
「おや、思い出したしましたか」
「すこし、ですけど」

何人かに無理矢理連れてこられ、そして薬の染み込んだ布を口に宛がわれ、意識がもうろうとし始めた頃に、この男はあらわれた。その時は仲間と思しき人間も何人かいたと思ったのだが、今は目の前の男以外に人の気配が無い。

「助けたわけではありませんよ。我々の島で他所の者が好き勝手やった挙句、有名人を死なせたとなっては面子にかかわりますから」

それだけです、あなたを助けた理由は。

男はそういって、深く煙を吐き出した。その煙の漂う様を無感動に見つめていると、機械音が静寂に響き渡る。携帯の着信音らしい、男は幽から少しだけ離れると先程ポケットに突っ込んだ携帯を取り出した。

「ああ、折原さんですか。どうですか、連絡は着きましたか・・・ああ、それはそれは。分かりました、それでは」

短いやりとりの中で聞こえてきた、おそらく電話の相手だろう人物の名前に、幽はぴくりと反応する。
あの折原臨也の知り合い、なのだろうか、この男は。

「迎えが間もなく来るようです。勝手かとは思いましたが、住所や連絡先が分かる物が何もなかったものでしてね、こちらでご家族の方に連絡を着けさせてもらいました」
「かぞく、」
「はい。もうじき、貴方のお兄さんが来ると思いますよ」

先程の電話は、その知らせだったのかと幽は一人納得する。自分の連絡先を知るために、折原臨也に電話をした、そんなところだろうか。

「それでは、私はこれで。薬が抜け切るまでは大人しくしていた方が身のためです」
「はい・・・」

上着を拾い上げると、男は早々に幽に背を向けた。工場の壊れたシャッターから出ていく直前、男は振り返る。

「ああそれと、今日の事はお互い、何もなかった事にしましょう。貴方も、我々と関係があると知られるのは世間的によろしくないでしょう。それは我々も一緒なので、ね」

幽は動かなかった。ただいつものように色のない完璧な無表情で、男を見つめる。

「もう二度と再会する事がないと願いますよ・・・羽島幽平さん」

男は夜の中へと消えていった。

(結局、あの男の名前はなんだったのだろう)

兄が血相を変えて迎えに来るまで、幽はただそれだけを考えた。
作品名:混じり合う昼と夜 作家名:ひいらぎ