二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

将棋

INDEX|1ページ/1ページ|

 
ぱち、ぱち。

静かな空間に最初こそ響いていたのは小さな、それでいて小気味いい音だけだった。今はその小気味いい音に加えて、ヤジのような、応援のような、とにかく僕と臨也さんにしてみたらちょっと迷惑な音が混ざって飛び交う。

ぱち、ぱち。

「あーあー、そこは違うって坊ちゃん。いいかい、相手の金が上がってきてるんだから、そこ動かしちゃったら一気に詰められるでしょ」
「は、はい」

ぱち、ぱち。

「折原さん、飛車を捨てるよりも銀を上がらせて成り金にした方がよろしいのでは?それでは馬鹿の一つ覚えですよ」
「・・・そーですね」

ぱち、ぱち。

(・・・すんごい、やりづらい)

最初は、ただの暇潰しで僕と臨也さんが対局をしていた。僕も臨也さんも四木さんに用があるからと呼び出されたのに、当の本人は急な仕事だとかで客人である僕らをほっぽいてあれこれと動き始めたから、僕らは特段やる事も無くて暇で、そーいや四木の旦那、将棋持ってたっけ、と臨也さんが思い出したように呟いたから、勝手にその辺を漁って見つけ出した将棋セット一式を広げ、僕らは暫しの暇潰しに興じる事にした。
ただそれだけだったのに。

(いつの間にか、赤林さんもいるし)

仕事が終わったのか、戻ってきた四木さんとほぼ同時に部屋にやってきた赤林さんが、ソファで向かい合って座りながら対局する僕らの手元を覗きこんで腰を落ち着けたのが始めまりだった。始めこそ静かに見守っているだけだったのに、次第にそこは違うだのそれは駄目だだの、横から口を挟んでくる始末だ。

僕は正直やりづらくて、ちらりと窺った臨也さんもすごく迷惑そうな顔をしていた。

「だからさあ、そこは一旦下げるべきでしょ。後ろの方で角が構えてんだから、進んだらお陀仏だよ?」
「そこでは歩を刺されたら拮抗してしまいますよ。まずは駒を奪う事に専念した方が……」

僕らを置いてけぼりにしてヒートアップする四木さんと赤林さん。僕は臨也さんにちらりと目くばせする。臨也さんも同じ事を考えたのだろう、苦い顔で僅かに頷いた。

「・・・四木の旦那、よかったらここから変わります?」
「あ、あの、赤林さんも・・・途中からでよろしいのなら、どうぞ」

僕らの申し出に二つ返事で頷いた彼らは、そのまま黙々と将棋を刺し始めた。

「臨也さん、また暇ですね」
「そうだね・・・セックスでもする?」
「本気ですか」
「いんや、言ってみただけ」
「そうですか」

再び手持無沙汰になってしまった僕らは、大人げない大人が向かい合って盤上を睨むのを、ただ眺めていた。
作品名:将棋 作家名:ひいらぎ