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ナターリヤさんが家出してきました。

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第1話



今日も今日とて季節を楽しみ、風流を感じる『日本』こと本田菊。
彼の日和見ライフは一瞬にして崩壊する。
――――突然の来訪者によって。

「ええと・・・ナターリヤさん?」
縁側で愛犬・ぽちと戯れていた本田は、突然やってきた「彼女」に驚いた。ナターリヤと呼ばれる少女は、本田と同じように、『ベラルーシ』という国である。高級な絹の如く透きとおる銀髪。宝石のように美しく輝く紫の瞳。歩いていれば誰もが振り返るような美少女。いつもはそんな彼女だが、今日ばかりは様子が違う。チャームポイントである大きなリボンは汚れているし、全身にかすり傷だらけである。しかもいきなりやってきて「今日から私はここに住む」と言い始めた。
「そういうことだから、よろしく頼む。」
「そういうことって・・・どういうことですか・・・。」
あまり話したことのない彼女が、自分のところに来るのもおかしなものだと思いながら、本田は心を決めた。
「とりあえずお風呂に入って、汚れた身体を洗ってきてください。」
何故彼女が自分のところに来たかはわからない。しかし、彼女の気がすむまで泊めてやるのも一興。どうせこの広い家には自分とぽちしか住んでいないのだから。

風呂からあがったナターリヤは脱衣所に置かれている女物の着物を見て戸惑った。
(これはなんだ・・・?)
確かあいつの着ていたものがこんな感じだったかもしれない、と思いつき着てみるが前が丸見えである。
(・・・・?)
なんど着ても前は締まらないのであきらめて本田のもとに向かうことにした。
「おい。」
呼びかけて見ると本田は何かをゴシゴシとこすっていた。向こうを見ながら返事を返す。
「あ、ナターリヤさん。今貴女のリボンを洗っていたところでぇえええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!」
返事をしながらこちらを向いた本田は大声をだしてすぐにまたむこうを向く。
「ななななななななななんて格好をしてるんですか貴女はぁぁああああああ!!!!」
本田は彼女の下着が丸見えなことに気づいて赤面したのだった。
「お前が用意した服だろう。いやらしい奴め。」
「ち、ちが・・・と、とにかく早く帯をつけてください!!」
「?着方がわからない。」
「あー!ちょっと後ろ向いててくださいね!」
本田は慌てて違う部屋に行き、『着物の着付け方』という本を持ってきた。
「これを読めばわかりますから!」
ナターリヤは後ろ手に本を受け取り、ぱらぱらとページをめくる。
「私は日本語が読めないんだ。」
本はすべて日本語で書かれていた。本田がどうしましょうと頭をかかえると、ナターリヤは身体をふるわせた。
「くしゅんっ」
小さなくしゃみが聞こえて、本田は今日2回目の腹をくくった。
「失礼しました。今の格好では湯ざめしてしまいますね。私が着つけます。ですが・・・その・・・・いろいろなところを触ると思うのですが・・・ご無礼をお許しください・・・。」
「?わかった、早くしてくれ。」
何をされるのかよくわからなかったが、せっかく温まった身体が冷えてしまうのは嫌だった。本田は流れるようにナターリヤの着物を着つけた。下着を見ないように目をつぶりながら。
「よし、完成です。」
帯をぽんと叩き額の汗をぬぐう。
「手慣れているんだな。」
「ええ、昔から近所のお嬢さん方を着付けていましたから。苦しくはありませんか?」
「ああ。大丈夫だ。」
「それじゃあどうして私の家に突然来たのか、お伺いしましょうか。」
「・・・家出してきたんだ。兄さんのところから。」
平然と答えるナタ―リヤ。
「な、なんですってえぇえええええええええぇええ!?」
本田の叫びは家中にとどろいたのだった。