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ナターリヤさんが家出してきました。

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何度も試着をしてへとへとになったナターリヤは会計を済ませようとした。すると店員はにっこりと笑う。
「もうお代はいただいているんですよ。さっきの方からカードで。・・・素敵な彼氏さんですね。」
「・・・そうか・・・。いや、そういうのじゃないんだが・・・。世話になった。」
「ありがとうございましたー。」
ナターリヤは店をでると急いで本屋に向かった。礼を言わなければならない。あと、待たせたお詫びも。本屋に着くと、本田は見あたらなかった。中に入って見渡してみたが、それらしい姿はない。
(どこいったんだあいつ・・・!)
普通なら携帯電話で連絡をとるのだが、ナターリヤも本田も、携帯を持っていなかった。
(とにかく探さないと・・・!)
本田を探しに他のフロアにも行ってみるが、それらしい影は全く見当たらない。ふうと溜息をついて、壁によりかかった。本田がいなければ家までの道がわからない。ナターリヤは突然暗闇にひとり取り残されたような感じがした。
(昔、似た体験をしたな・・・。)
兄も、姉もいなくなって、ひとりで泣いていた記憶。暗くて、苦しくて、怖くて、切なくて。ひとりは怖い。ひとりは悲しい。
きゅっとこぶしを握る。このまま本田に会えなかったらどうしよう。このまま、あの温かい家に帰れなかったら。ふとそんなことを思って、ひとりで嘲る。いつのまに私の家はあそこになったんだ。家出してきたくせに。でも、あの家はすごく、居心地がよかったんだ。いつまでもここに居たいと、思えるくらいに。

「ナターリヤさん!」
本田の声が聞こえて、振り返る。息を切らして走ってくる本田が見えた。
「本田・・・。」
「はあっはあっ!どこっ行ってたんですかっ!探したんですよ・・・!」
「・・・本田が最初にいなくなったんだろ・・・。」
「ナターリヤさんがっ遅いから、さっきのお店にっもう一度行ったんですが、行き違いにっなってしまったみたいですねっ・・・!」
本田はとぎれとぎれに声を漏らした。よほど走ったらしい。
「・・・ごめん。本屋から、動かなければよかった・・・。」
「いえ、私も・・・。それに、探してくれたんでしょう?」
「ああ・・・。」
「買い物、続けましょうか。」
にっこりと笑う本田を見て、ナターリヤはこくりと小さくうなずいた。

手を繋いで帰る帰り道。
もうお昼はとうに過ぎていた。
「ぽちくんお腹すかせて待ってますかねえ・・・。」
「私も減ったぞ。」
「帰ったらすぐお昼にしましょうね。」
「本田・・・。」
「なんですか・・・?」
「ありがとう。」
服を買ってくれたこと。待っていてくれたこと。汗だくになって探してくれたこと。・・・家に住まわせてくれること。ナターリヤはぽそりとつぶやいた。
「いいえ、どういたしまして。」
その日から、本田家の洗面台には二つのコップと二つの歯ブラシが並ぶことになった。