甘事
ふと、目が覚めた。時計を見れば、まだ日付を越えてはおらず、意識をなくしてから然程時間がたっていないようだった。視線を横に動かせば家主が静かに眠っている。
普段見える生気のない目が隠されたその横顔はひどく幼く、先刻見せた獰猛な捕食者の気配はみじんも感じられない。
(いい気なもんだ)
何も悩みのなさそうな寝顔がなんだか憎たらしくなってきて、起こさない程度に髪をひと房引っ張る。一瞬、むずがるように眉をひそめたが、引っ張った髪を撫でつけるように髪をすくと安心したように表情を緩める。
(子どもみたいだ)
ゆるみきった顔が自分を受け入れている証のようで、何度も髪をすく。
その時。
「と、しろ」
ふいに呼ばれたその声に
愛しさが、こみあげた
衝動のままに、身を起こし相手の唇に軽く触れさせるだけの子供じみた口付けを落とした。
(たりない)
銀時の上に体を乗り出す。
未だ開かない瞼をしばし見つめ、今度は額に口付ける。そのまま左へと移動し、左目を啄ばむ。
(まだおきない)
目の前にある銀髪に触れたくなったので銀髪の横に肘をついて奔放にはねる髪の中に指をさしこむ。もはや、指に慣れたふわふわとした感触を楽しみながら髪にもいくつか口付けを落としていく。
「・・・誘ってるの?」
どうやら起こしてしまっていたらしい。着やせする太い右腕に言葉とともに腰を引き寄せられる。上体が銀時の上に乗り上げ、自然と何も身につけていない足が絡む。鍛練なんて言葉とは程遠い生活をしているにも関わらず、その体にはしっかりとした筋肉が感じられて何となくくやしい。ちょっとした苛立ちに任せてさっきから触れている髪の毛を指先で少し乱暴に引っ張る。
「ちょ、地味に痛いんですけど!やめてくれる?銀さん将来はげちゃったりしたらどうすんの。あれだからね。銀さんアイドルだからはげちゃったりしたら歌舞伎町のみんなが悲しむんからね。そこんとこよく考えて・・・」
「うるせぇ」
「ようやくしゃべったと思ったら一言でバッサリ!?てか人がしゃべってるときに遮るのやめてくれる!?人の話は最後まで聞きましょうっておかーさんに教わって・・・」
起きぬけの癖によくまわる口をふさぐ。いつも死んだ魚のような目が驚いたように見開かれていて、悪戯が成功したようで気分がいい。
「・・・十四郎、なんかあった?」
ちゅっと音を立てて額に唇を寄せそこから眉をなぞるようにして右目に向かう。反射的に閉じられた瞼を左目と同じように啄ばむ。そのまま鼻筋を辿ってもう一度相手の口をふさぐ。深くは合わせず、所為バードキスで何度も触れる。
「十四郎?」
右の頬に口づけてこめかみへ。右目へ細かくキスを落とし、その次は左目に。
「十四郎」
目を閉じて相手の額に自分の額をあわせ、鼻と鼻をすり合わせる。目を開けると困惑した赤い瞳が見えた。
「・・・」
顔を少しずらして口付ける。啄ばみ、舐めて、少し噛む。
「・・・ッ、」
突然、体が反転した。
「ぎ、」
言葉も息も奪うように深く唇が合わさる。顔を両手で固定され、頭がのけぞる。自然、薄く開いた口に侵入してきた熱い舌に抵抗せず、自らのソレを絡めていく。舌を甘噛みし、上あごをなぞり、舌先を吸う。そのたびに、甘い痺れが腰から這い上がり、たまらず相手の首に縋りつく。
「ねぇ、誘ってるよね。おめー、絶対誘ってるよね、これ。誘ってなくても、銀さん勝手に煽られたからね。もう止まらないから。ちなみに苦情も一切受け付けないから」
「・・・おせぇよ」
「・・・っとにこの子は!」
「あ?」
「も、黙って」
「喋ってたのはおま・・・、ん」
あまくあまく
もう一度キスをして
あとは互いの熱に身を任せて
そうして夜は更けていく