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別れる

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別れる


会いたいと、そばにいたいと望むこと自体、許されないんだろうか

「別れよう」

「俺たち、もう、いいよな? もともとお付き合いなんて柄じゃないし、お前だってそろそろ潮時だと思ってただろ? 組も大きくなるとかでこれから忙しいみたいだし。ここらで終わりにしとこうや」

恋愛なんてしたことなかった。
する暇なんてなかった。
本気で惚れた女はいたが、自分が彼女を幸せにできると思えなくて寄り添うことはなかった。
だから、今、どうしていいのかわからない。

「じゃあな」

離れていこうとするアイツを自分に繋ぎとめる術が分からない。
そもそも、アイツを縛る権利が自分にあると思えない。

どう、すればいい

別れたくない。
離れたくない。
そばにいたい。
顔を見たい。
声を聞きたい。
肌に触れたい。

手にした携帯からは無機質な電子音が聞こえる。
アイツにつながっていた小さな箱を持ったまま動けない。

どうすればよかった?

焦燥が胸を焼く。
真っ白だった思考が徐々に動き出し、同時に体の感覚が戻ってくる。
視界がはっきりとして、目の前に愛用の文机と溜まった書類、煙草にマヨライターが見える。
耳が音を拾い始め、広間の宴会の騒がしい声が遠く、虫の音がすぐそば聞こえて、それよりもさらに近い耳元で電話からいつまでも電子音が流れている。
指の先から浸食されていくように冷えてきて四肢の感覚がなくなっていく。
不規則にはねる心臓に体が揺れている気がする。

脳が感覚器官から入ってくる情報は処理するのに、己の感情を処理してくれない。
体が動かない。
どう動かしていいのかわからない。
息が苦しい。
呼吸の仕方を忘れた。
どうすればいい。

どうすれば どうすれば どうすれば どうすれば

どうして



誰か、

たすけてくれ



( ぎ ん と き )
作品名:別れる 作家名:macho