言えないよ
side:MEIKO
「めーちゃん、またマスターのお酒飲んでー」
「うっさいわね。あんたのダッツにかけてあげようか?」
ふざけて瓶を持ち上げると、カイトは本気でのけぞり、ダッツのカップを背中側に隠す。
「めーちゃんの馬鹿!酒乱!!」
「うっさい!バカイト!!あんたなんか、冷凍庫に頭突っ込んで死んじゃえ!!」
あー、苛々する。
せっかくのお酒が、目の前の馬鹿のせいで台無しじゃない。
今日は、マスターが残業で遅いから、ミク達を寝かしつけた後、戸棚の奥に隠されている日本酒を引っ張り出して、楽しんでいたのに。
ミク達と一緒に寝たはずのバカイトが、何故かダッツ片手にやってきた。
で、マスターが楽しみにしてたお酒なのにとか、マスターが残業してるのにお酒飲んでとか、マスターがマスターがマスターが…
ああもううるっさい!!二言目にはマスターマスターって!!
あんたが、マスター大好きなのは分かってるわよ!!でもね、今目の前にいるのはあたしなの!!マスターじゃなくてあたし!!メイコ!!ちょっとは、あたしのことも気にかけなさいよ!!このバカイト!!
今だって、マスターが買ってきたダッツを、間抜け面で味わってるし。
何そのアホヅラ。ふにゃふにゃ笑って、「マスター優しい」とか言っちゃって。
そんなに幸せなのかと。そんなに美味しいのかと。
以前、私がアイスを買ってあげたら、滅茶苦茶引いた顔で「酒臭い…」とか言いやがったくせに。
あーもう、ムカツク!!
今度、バカイトのいない間に、アイス全部外に出してやる!!
side:KAITO
「めーちゃんの馬鹿!酒乱!!」
「うっさい!バカイト!!あんたなんか、冷凍庫に頭突っ込んで死んじゃえ!!」
ああもう、何でめーちゃんは、こうも怒りっぽいんだろう。
マスターがいないと、めーちゃんはお酒の量が増えるから、心配して言ってるのに。
めーちゃんは、マスターがいないと機嫌が悪い。
マスターが残業で遅くなったり、休日仕事になったりすると、途端に不貞腐れる。
それでも、ミク達が起きてる時はいいけど、二人っきりになった途端、急に怒り出す。
マスターの前では、いっぱい笑ってるのに。
何で、俺に対しては、こんなに怒るかな。
めーちゃんがお酒を飲んだこと、マスターに謝ってるのは俺なのに。
マスターにお願いして、めーちゃんの好きな銘柄を揃えてもらってるのに。
何で、俺のラムレーズン食べちゃって、代わりに日本酒アイス置いとくんだよ。
あんなの、何処で見つけてくるんだろう。
あーあ、マスター早く帰ってこないかな。
マスターとめーちゃんが仲よくしてるのは、正直…うん、面白くない、けど。
めーちゃんは、笑ってる方がいいから。
いつか、俺の前でも、笑ってくれるといいな。
終わり