夏の思い出
ちょっと立派な仕事机の、イメージとしてはどこかの会社の社長が座ってるような椅子に座って足を組みながら、臨也さんは嫌な風に笑った。
対する僕は全然笑えない。いやむしろ笑って下さい盛大に。
「あの・・・質問、いいですか」
「どうぞ」
「どうして僕は、こんな格好をさせられているのでしょう」
「俺が見たかったから」
「・・・・・・」
「似合ってるよ、うさ耳」
がっくりと項垂れると、それに合わせてカチューシャについた造り物のうさ耳もだらりと垂れ下がった。
僕、一応というかれっきとした男子高校生なんだけどなあ。どうして人生で二度も兎の耳を頭にくっつけなければならないのだろうか。
「そんな格好で街中歩いたんだろ?帝人君って案外勇者だよね」
「・・・えっと、馬鹿にしてますよね」
「それ以外に聞こえた?」
臨也さんは笑顔だ。何が楽しいのか分からない。僕ががっくりと肩を落として恥ずかしがる姿を眺める事に楽しさを見出しているのだろうか。
正直、いくら付き合っている人の前だからって、こんな、男としてみっともない姿はしたくなかった。じわりと浮かびかけた涙を誤魔化す様に瞬きすると、みかどくん、と甘い声で呼ばれる。
「へ?」
反射的に顔を上げてしまうと、カシャ、と機械音が一つ。それとフラッシュ。
「な、にを・・・・・・」
「なにって写メ。あ、別に俺が欲しがったわけじゃないから」
「は・・・?」
「四木の旦那がね、意外にも小動物が好きらしくてさ。可愛い兎が一匹いますよーって言ったらぜひ見たいって」
「は、え・・・・・・?」
「だからとりあえず写真送ろうと思って。あ、謝礼ははずむって言ってたから心配しなくていいよ」
臨也さんはかちかち携帯をいじりながら簡単な事のように言う。僕は話の内容にも展開にもついていけず、口をぽかんと開けて間抜け面を晒すしかできない。
「これで旦那のお眼鏡にかなったらペットとして雇ってもらえるかもよ」
帝人君バイト探してたって前に言ってたし、丁度いいんじゃない。
そんな風に言われて、僕はようやく状況を理解した。
(ぼく・・・・・・売られた?)
帝人君そのかっこう結構かわいいよ、なんて言いながらもう一枚写真をとり始めた臨也さんに、僕はぐうの音も出ない。
力なく揺れる兎の耳が、何だか可哀想に見えてきた。