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リボン

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「ねぇねぇミニス、こっちの色なんてどうかな?」

「うーん、ちょっと明るすぎない?」

 ミニスは少し考えるように腕を組み、付けたばかりの鮮やかなリボンを見つめる。

「似合うと思ったんだけどなぁ」

 っと残念そうにユエルはリボンを外した。






「ミニスちゃんにユエルちゃん……何をしてるの?」

 楽しそうに笑い合う少女たちの声に惹かれて、仲間達の洗濯物を持ったままアメルはテラスを覗いた。
 そこにいたは声の主たる2人の少女と――――――

「……ルヴァイドさん?」

 意外な人物にアメルは眉を寄せた。
 長めの紫紺の髪を風になびかせ、うららかな日差しに誘われたのだろう、黒騎士と呼ばれる人物が本を片手に船をこいでいる。
 常に毅然と振る舞い、戦場ならば皆の盾になるように前線で大剣を振るう姿は勇ましく、ともすれば近付きがたくもあるのだが……油断大敵。怖いもの知らずな2人の少女にかかれば……彼すらもおもちゃだったようだ。
 その証拠に、彼の紫紺の髪にはいくつかの色鮮やかなリボンが結ばれている。

「ルヴァイドの頭がちょうど良いところにあったから、似合う色を探してたのよ」

「そうそう、本読む時とか、この髪の毛邪魔だったみたいだし……」

「結構ぐっすり眠ってるみたいだから、もうやり放題? みたいな」

「起きてる時だったら。絶対こんなことさせてくれないもんね~」

「「ね~?」」っとミニスとユエルは顔を見合わせて笑っている。

「でも、このお屋敷にあるリボンは全部試したんだけど……
 なかなか似合うのがなくって……」

 ユエルが手にした箱を漁る。
 家主であるミモザの持ち物のようで……彼女の好む緑色のものが主流のうようだったが……元々彼女は普段からそういった装飾品を身につけない。当然その数にも限りがある。
 格好のおもちゃを手に入れたが、すぐに遊ぶネタが尽きてしまったのだ。
 ユエルとミニスはやや不満げに眉を寄せている。

「ルヴァイドの髪の毛って、綺麗だけど、合わせにくい色してるのよね」

「もっといっぱいリボンがないと、似合う色なんてみつからないよ~」

「いっぱいリボンがあるところ……そうだ!」

 心当たりがあるのか、ミニスが瞳を輝かせた。

「本宅にいけば、わたしのリボンがいっぱいあるわ!
 きっとルヴァイドに似合う色だってあるわよ」

「ほんと?」

「うん、いこうユエル。マーン家の本宅に」

 言うが早いか、ミニスはユエルの手を取り屋敷に入ろうとして、立ち止まる。
 くるりと振り返って、ミニス特有の……悪戯をする前のような笑顔を向け、アメルに一言。

「ルヴァイドが起きないように……見張っていてよ、アメル」







 そよ風のように少女2人が屋敷から出て行くのも見送ったあと、アメルは出しっぱなしになっているいくつかのリボンを箱に片付ける。
 その作業の合間に――――――

「おつかれさまです」

 眠っている男に話かけた。
 相手は眠っているはずなので、返事はないはずなのだったが――――――ややあってから。

「……気付いていたのか」

 目を閉じたまま『眠っている』男が答えた。

「結構前から、起きていましたよね」

 ユエルとミニスは遊びに夢中で気がついていなかったようだったが、途中からその作業を見たアメルには、何だか居心地の悪そうに眉を寄せるルヴァイドの表情が見て取れた。

「起きるタイミングを逃してしまったようだ」

 瞼を閉じたまま、ため息まじりに苦笑をもらす。
 珍しい姿のルヴァイドに、アメルは始めて彼の本当の微笑みを見た気がした。

「それじゃあ、もう少しだけ……あの2人に付き合って上げてください」

「ああ、もうしばらく……付き合うとしよう」

 うっとりと慈愛の微笑みを浮かべるアメル。

『眠っている』男は、その聖女の微笑みを独占しながらも、見逃してしまった。


 ―――――――そんな午後のひととき。
作品名:リボン 作家名:なしえ