風の少女
香る風と透き通る空に包まれた、小さな世界。
「父上を憎むなとは言わない。それも君の生き方だから、否定することは誰にもできない」
目を細めたままぼんやりと庭を見つめるエレクラに、グレデュースは囁いた。
「でも……確かに君の父上は、君を愛していたよ」
そう、本気で憎んでいたのなら殺してしまえば良かったのだ。
対面など気にする必要もない。
狸と狐ばかりの魔術師の世界で、人を1人殺すことなど造作もないこと。
証拠など、どこにも残らない。
グレデュースの言葉を、ゆっくりと理解したエレクラの表情が曇る。
「そんな事、あるはずがない」
軽く唇を噛むエレクラの髪をグレデュースは優しく撫でつける。
「信じなくてもいい。君は愛されていた」
だから閉じ込めた。
外に出さなかったのは、確かにエレクラの力を隠すためだった。
忌まわしいとされる風の力を持つエレクラを、水の力しか持たない親族の目から守るために。
大切な娘にその真意は伝わらなかったが。
腕の中で背筋を伸ばし、庭で踊る風を感じながら……小さく震えるエレクラの表情は見えない。
その柔らかなアッシュブロンドの髪を撫でながら、グレデュースはもう一度「愛されていたよ」と繰り返した。