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BOMBER☆松永
BOMBER☆松永
novelistID. 13311
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Ding Dong

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「特に予定が入っておらんなら、クリスマスから新年にかけてを皆で祝わんかね?」
 そんなギルモア博士の呼びかけを受け、ゼロゼロンバーサイボーグたちが日本に集まったのは、イブのことだ。普段は有事にしか集合しないことの多い彼らにとって、平穏な時間を共に過ごすことは、少し新鮮な楽しみとも言えた。
 とはいえ、中国料理店のオーナーシェフである張大人だけは、残念ながら参加できなかった。なにせ日本のクリスマス・イブは、恋人の祭という雰囲気である。その余波を食らい、今日は大忙しなのだ。クリスマスに中華ディナー、というのも妙な話ではあるが、それこそが"無国籍都市"日本を物語っているとも言える。ちなみに、本来なら店を手伝わされる筈であるグレートは、どんな手を使ったものか、上手く逃げてギルモア邸にいた。
 そんな訳で、張と眠っているイワンを除いた残るメンバーで、簡素ながらもフランソワーズお手製のディナーを楽しんだ。自然、話題はクリスマスの思い出に集中する。
「クリスマスは、ミサの準備で忙しかったよ」
 幼少期を教会付属の施設で過ごしたジョーが、どこか懐かしそうに呟く。
「皆で教会の掃除をしてね。末席で神父様のお話を聞いたな。退屈そうにしてた子もいたけど、僕は結構楽しかった」
「家にいた頃は、家族で祝ってたわ」
 フランソワーズも、遠くを見つめる瞳をした。
「お母さんがブッシュ・ド・ノエルを作るの。そして、クランベリー・ソースのかかった七面鳥。ツリーを飾るのは、あたしと兄の役目よ」
「俺も子供の頃はツリーを飾る手伝いをしたぜ」
 珍しくアルベルトも昔語りを始めた。
「それから、近所のパン屋にシュトーレンを買いに行ったりな」
「あんた、もしかして結構坊ちゃんだった?」
 からかう口調でジェットが言えば「悪いかよ」とアルベルトは口を曲げた。
「俺にゃクリスマスなんざ関係なかったぜ」
 鼻で笑う様子を崩さず、ジェットは言う。
「こんなの所詮ホワイト・カラーのお祭りさ。俺には縁がねぇや」
 明るい内容では決してない筈が、当人が湿度の無い声で話す。だから、そこに不幸さはない。それに負けじとばかりに、ふふん、と唇の端を釣り上げたグレートが言う。
「クリスマスには、教会の"施し"が少しばかり豪勢になるってご存知かね?」
 これには、さすがに全員目を見開いた。
「いつものスープとパンの他に、ケーキもつくんだよ。ま――ほんの断片程度の代物だけどね」
 何処か自慢気に語る彼に、案の定「ちぇ、負けたー」とジェットが呟き、「日本の教会には、さすがにそういう風習は無いなぁ」とジョーが答えて、食卓は笑いに満ちた。ギルモアも楽しそうに彼らを見つめている。
 そんな中で、ジェロニモとピュンマには語るべき話題が無かった。普段は感じない国籍の違いを、こんな場面では否応なしに思い知らされる。
 食後のコーヒーを楽しむために、ダイニングからリビングへと移動する時、ピュンマが小声でジェロニモに囁いた。
「外に出ないかい? 005」
 彼にも、当然断る理由は無かったので、促されるままに部屋を出た。意外に目聡いグレートが、そんな2人を一瞬見たが、彼は何も言わなかった。そういう機微を察する術に、この英国人の旦那は長けている。
 家を抜けた2人は、浜辺に降りた。冬の潮風は、さすがに少し冷たかったが、軽くワインを飲んで火照った体には丁度いい。しばし無言で海を眺めた後に、ピュンマがぽつりと呟く。
「こればかりは文化の違いだから仕方無いけどね。ああいう話題の時は、少し疎外感を覚えるよ」
「同感だ」
 ジェロニモも小さく苦笑した。
「キリストの生誕を祝うのは、完全にヨーロッパの風習だからな」
 再び彼らを沈黙が包む。気詰まりでは決してない、穏やかな時間。
 不意にジェロニモが呟いた。
「――子供の頃には、25日になれば、母親がご馳走を作ってくれた」
「へえ? クリスマスを祝う訳でもないのにかい?」
 意外そうに聞き返したピュンマに、何処か照れた口調で、ジェロニモは呟く。
「――誕生日なんだよ、俺の」
 その言葉を聞き、ピュンマは更に驚きに目を見開いた。
「……初めて聞いたよ」
「初めて言うからな」
 その声には、彼には希なことに、微かな寂寥が混ざる。
「今日は何故か、話したい気分になった」
「そういえば……そういう話って、したことなかったね」
「余り話題に必要性がないからだろう」
 珍しく自嘲気味の笑みを浮かべ、ジェロニモは呟く。
「誕生日が来たからといって、俺たちは年をとる訳じゃない。だから、それは只の日常だ」
「そんなこと、ない」
 少し強い口調で、ピュンマは反論した。
「確かに僕たちは、もう年はとらない。でも、僕は――君の誕生日を祝いたい」
 その声色の真剣さに、ジェロニモはハッとして彼を見返す。
「君が生まれなければ、僕たちは出会えなかった。だから、君がこの世界に存在してくれる事実に感謝するために、僕は君の誕生日を祝いたいよ、ジェロニモ。この先何度でも――」
「お前には、教えられることが多い」
 ジェロニモは感慨に満ちた声で呟く。
「それなりに長く生きて、いろんな経験もしてきたつもりだったが――まだまだ世界は学ぶべきことに満ちていると、お前といると思い知らされる」
「僕もだよ。だから――一緒に成長して行こう」
 ピュンマの言葉に、ジェロニモは笑顔を返す。
「そうだな。俺たちには時間がある。手探りでも、一歩ずつ確実に、進んで行こう」
 家の中でクラッカーの弾ける音がした。今、この瞬間に、日付が変わったのだろう。ピュンマは微笑んで言った。
「メリークリスマス、ジェロニモ。そして……ハッピーバースディ」
「……メリークリスマス」
 そして、二人はキスをする。互いの存在を確かめ合う、深い、長い、祝福の口付けを。
 やがて唇を離したジェロニモが、笑いながら言った。
「クリスマスも悪くないな」
「今年からは、毎年そう感じるよ、きっと」
 ピュンマも笑い――そして、突然弾かれたように歓喜の声を上げた。
「……雪だ!」
 その声にジェロニモも顔を上げれば、上空から白いものが、ゆっくり舞い降りて来るのが見えた。
 音も無く降り始めた雪片は、緩やかに弧を描きながら、そのまま夜の海に溶けて行く。雪に馴染みの薄いピュンマは、彼の腕を擦り抜けると、珍しそうに、楽しそうに、砂浜で雪と戯れ始める。まるで自らの羽根を巻き散らしながら、踊るように。
 その細く小さな肩を、背中からジェロニモは抱き締める。嬉しそうに声を上げて、ピュンマが笑う。
 遠く、鐘の音が聴こえた気がした。





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作品名:Ding Dong 作家名:BOMBER☆松永