生きるの超楽しい!
現実世界なら取るに足らない存在であるはずの玄野計を、これほどまでに気にかけてしまうのは、認めたくないがしかし、羨望であるに違いなかった。17年間生きていた中で、これほどまで他人に執着したことがあっただろうか。いや、ない。あるはずがない。自分を越える存在を眼前にした今だからこそ、この焦燥感は表れたに違いないなかった。
あの男は自分の持っているもの全てを凌駕する何かがある。
そう、確信している。
「ちッ……」
コントローラーで敵の位置が示された場所の光がひとつ、また一つと消えてゆく。残る一つの光がきっとこのミッションに於ける大ボスであることはほぼ間違いなかった。ほんの数百メートル先に、いつもと変わらぬ巨大で謎めいた星人がいることを願いながら和泉は更に加速度を上げる。心音は耳元でどんどんと大きくなり、思考を奪うほど煩く、鳴り響いていた。
玄野には殺させない、けれどアイツが、星人に殺されることも許さない。
いつの間にか、和泉にはある願望が芽生えていた。
それはただ単純に、「玄野計を自分の手で殺す」というそれだけだったが、それは和泉に、ほんの少しだけではあったが生きる意味を賦与させるものだ。今、あの男は、小島多恵を蘇生することに躍起になっているはずだ。生き残ること、百点を取ることのみが眼光に宿っている。和泉のことなど一切眼中にないようだった。
明らかに自分ばかり玄野のことを気にかけているという現実に腹が立ちつつも、それもいつか殺すことを考えればいくらかはましになる。ああ早く、ミッション関係無しにあの身体を裂いてしまいたい。首を飛ばして内臓を抉り取るのもいい。だから他人に殺されることだけは許さない、許されないのだ。俺の獲物は俺だけのもの。世界はそう決まっている。
ようやく敵が目の先で捕らえられるところまできた和泉は、ごくりと喉を鳴らしてグリップを握りなおす。生きるための闘い方をする玄野を横目に、走りぬけた先は敵の真正面だ。それに気付いた玄野が自分の名を叫んだと同時に、急所である首を一突きする。
そこで一つの命は儚くも軽々と消え去り、和泉と玄野二人だけの空間が瞬時に形成された。
「テメェ……」
「なんだ?横取りされんのがイヤだッつーんなら一瞬で殺せ」
「次ヤッたら許さねェかんな」
「はッ……お前が俺を許したことが一度でもあるのか?」
「……」
玄野はそれ以上何も言うことなく和泉自身を否定するようにその場から立ち去った。
残った和泉は、四方に散らばった死骸に目をやりながら、「ああ、殺したい」と、また呟くのだった。