二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ソリチュード・Ⅰ

INDEX|1ページ/1ページ|

 


東京の片隅である夫婦が死んだ。
事件性は無しということで処理されているが、実は二人は殺されたのだった。



セルティ・ストゥルルソンは運び屋だ。猫耳の付いた黄色いヘルメットに漆黒のライダースーツ。コシュタ・バワーという常識外れのシューターを手足とし、PDAを愛用している。
今日の依頼は、とある箱をとある場所まで運んでほしいという、至極簡単なものだった。
深夜の道路をすっ飛ばしていたセルティだったが、ふと箱の中身が気になった。
今日の依頼人は、面識はないがいつも真っ当な依頼をしてくれていて、密かにセルティも信用している顧客だった。
一番最初の依頼のとき、気になるのならば箱の中を見ても良いが、それは運び屋の意思に任せる、という伝言まで付けられていた。そこまで言うのならば、反対に意地でも中身を見ないでおこうという気持ちが生まれるものだ。
だがそれも今回で終わりだ。今日が最後の依頼になるということを聞かされたのだ。
やや大きめのダンボールは随分丈夫に作られており、重さもかなりある。これくらいなら小さい子どもくらい簡単に入りそうだ。………いやいや。
後部座席に紐で括り付けている箱を、チラリと見る。
やっぱり気になる。
路肩にシューターを止めると、おそるおそる慎重にその箱を開けてみる。
「…ッ!!」
そっと中身を見てみると、そこには……。




「で、届けずに連れてきてしまったと」
『さすがにこれは届けることができない』
「でも、もう依頼代金は入金されているんでしょ?」
『だが、これは…』
恋人の新羅と同居している部屋のリビングで、そのソファーに寝かされているのは依頼品である箱の中身だ。
すよすよと平和そうな顔で眠っている幼い少女。胸元にリボンとフリルのついた水玉模様のバルーンワンピに、足元はレースの付いた黒い靴下とローファー。
彼女が抱き締めている、少女と同じくらいの大きさがあるテディベアも一緒に入っていた。
『こんな可愛い子を、結果的には狒々爺のもとへ運ぶことなど私はできない!』
「でも、本当に可愛いよね…」
子どもらしいフクフクした頬っぺたにサクランボのような唇、胸元あたりまである髪は真っ黒で、短めの前髪から覗く白い額はつやつやのスベスベ。
『かわいい…!』
「かわいいねぇ…」
思わず二人でデレデレしてしまう。
「でも、これだけ経ったのに目覚めないなんでおかしいな」
『どういうことだ新羅?!』
「いや、薬かなんかで眠らされてるんじゃないかと」
『なんだって…!!』
「ちょ、セルティ、ギブッ…」
思わず影で新羅の胸倉を掴み上げてしまったセルティに新羅が悶絶している。
『す、すまない』
「でもそんなところも素敵だよセルティ!……いや話を戻そう」
再度不穏な動きをみせた影に、慌てて新羅は話を戻す。
「見たところ、脈拍、心音、呼吸、顔色ともに異常はないよ」
『なら大丈夫なのか?』
「多分明日の朝…というかもう今日だけど、朝になったら自然と目覚めるんじゃないかな」
『そうか…よかった』
ホッとしたように肩を落としたセルティに、心配するセルティも素敵だよぉ!と新羅が言っているが、それは無視する。
そっとテディベアごと少女を抱き上げると、セルティは影でドアを開けると自室に歩いて行く。
「その子どこに連れて行くの?!」
両手が塞がっている状態でPDAは打てないので、無言のままセルティは少女を布団に寝かせる。
『ソファに寝かしたままじゃ可哀想だ。今夜は一緒に寝る』
「えー?!も、もがッ」
『うるさい!静かにしろ!!』
「大丈夫だよ、まだ薬が利いてグッスリ眠ってる」
『気持ちの問題だ』
「ていうか、僕もまだここの布団で寝てないのに、この子が先に寝るとかありえない!」
『黙れ!』
スコーンと新羅の顔にPDAが投げつけられる。
もはや面倒くさくなったセルティが寝てしまおうと掛け布団を捲ると、その反対から新羅が入ってくる。
『何をしている』
「いや、僕も一緒に寝ようかと」
『………今日だけだぞ』
「さっすが僕のセルティ!!ッぅが!!」
本日二度目のPDAでの攻撃が新羅に炸裂する。
『静かに!…おやすみ』
だがその画面にはキチンと就寝の挨拶が表示されていた。






ふわふわ、ぬくぬく、あったかい。
もぞりと身動きをすると、抱き込んでいたモコモコが唇を擽り、ゆっくりと思考が上昇する。幼い少女はゆっくりと目を開けると、ぼんやりと辺りを見た。
腕の中にある自分の等身大ほどのテディベア。身に着けているのは最後に自分が腕を通した洋服。
「……………ッ!」
バッと身体を起き上がらせると、きょろきょろと周囲に目をやる。見たことのない部屋、見たことのない内装。布団の上に座ったままギュッとテディベアを抱き締める。だが少女の不安に揺れる瞳の中に、一筋の好奇心が見え隠れしていた。
ソロソロと身体を動かすと、寝具の傍にちょこんとスリッパが置かれていた。今現在、部屋の中にいるのは一人だけ。これは自分のために用意されたものだろうと理解すると、ありがたく使わせてもらうことにした。
とりあえず部屋から廊下に出ると、灯りの付いている人の気配のする方向に歩いて行く。勿論テディベアはギュッと抱き締めて。
気配は二つ……二つ?多分二つ。にぎやかな話し声が聞こえてくるが、それは一人分で声質からして若い男性。朝からハイテンションでとってもお喋りだ。
おそらくキッチンとリビングがあるだろう部屋に、入ってもいいのかどうか躊躇っていると、ガチャと扉は開いた。
パチクリと目を見開いていると、「おはよう」と眼鏡を掛けた温和そうでいながた喰えない雰囲気をもった男性が声をかけた。
もう一人の方へ目をやると、
「……?」
とってもスタイルの良い女性だというのは分かるのだが、如何せん首から上がない。黒い靄のようなものが、断面から溢れだしている。女性はPDAを素早く操作すると、『おはよう』と入力した画面を見せた。
「おはようございます」
テディベアと共に箱詰めになって現れた少女―竜ヶ峰帝人が岸谷家で最初に口に出したのは、なんでもない朝の挨拶だった。
作品名:ソリチュード・Ⅰ 作家名:はつき