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理想の王子様

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泉ちゃんは可愛いけど、きっといつか王子様になれるよね。
いやいやだってそんな風に言われたら誰だって勘違いするものだ。
特に男なんて、俺が知っている中でも相当馬鹿な人種なわけだし、俺だってその馬鹿な人種のなかに中途半端に(認めたくないが、これはもうしょうがない。本当に俺は中途半端なのだ。)おさまっているからよくわかる。
王子様になってやるよ、なあんてうすら寒いことは言えるはずもなかったが、王子様になれるよねなんて言われれば都合よく解釈してしまうのが男というものだ。男はそうなんだ。単細胞は身に沁みている。
でも俺にとってその解釈はいくら咀嚼し嚥下したところで腑に落ちるようなことなどない。本気で勘違いしたままで過ごせるはずがないのだ。なにせこんなことを言ってくれた初めての女子は俺の兄が好きなわけで、俺の兄は俺のことが妙に好きなわけで、ああ下に悲しきはこの世の中。うまくいかないうまくいかない、そんなことを従姉妹のめぐみは言っていた。確かにうまくいかないんだよなあ。アイツの言うことなんて一切聞き入れたくはないんだけどそれだけは同意してやってもいい。
「泉ちゃん? どうしたの?」
「ん? ……ああ、別になんでもねーよ」
「え〜そう? なんか悩んでるの? あっもしかしてめぐみ?めぐみにいじめられたの!?」
「なんでそこでアイツなんだよ! んなわけねーだろ!」
「だってー」
不安そうにこちらを伺う姿はそれはもう兎のように可愛いし、かおり、という名前もかわいい。周りが突出した美人ばかりなせいか、かおりは自分に自身を持てないようだったが、かおりのファンはなんだかんだで多いのだ。優しくて、かわいくて、常識人。なによりあのめぐみとずっと仲良く出来るなんて、懐の広さは尋常じゃない。それだけで惚れてしまいそうになる。惚れないけど。そう簡単に、あの兄をライバルにしたくはなかった。歴史は繰り返される、なんてことは、もうゴメンだ。
「そんなことより今日部活見に行くのかよ?」
「え、嵐士? えへへ、そうだよ〜! チョコレート作ってきちゃったよ!」
「あいつ甘いもん駄目だぜ」
「し、知ってるけど……」
まあお前のは食べてくれるんじゃないの。言おうか言うまいかちょっと迷って、やっぱり言うのはよしておいた。ライバルは御免だけど、恋のキューピッドはもっともっと御免だからだ。かおりが嵐士以外の人間とくっついたらくっついたで文句を垂れるであろう自分の姿を想像すると、やっぱり俺は男として、女を好きになる男として、どうしても中途半端だなと思わざるを得ないのだった。
こんなんじゃいつになっても王子様にはなれっこないな。寒空に向かって思い切り息を吐き出した。

作品名:理想の王子様 作家名:knm/lily