reunion
「オッサン、名前なんつーの。」
「オッサンじゃないから教えません。」
「じゃあ、おにーさん、」
性病持ちの黒モジャの付き合いで行ったそういう店で、そういう人が集まる場所に放置されたのが3時間前。ムサい男だとかばかりで帰りたくて仕方が無かったけれど、一応付き合いの手前無断で帰る訳にも行かず端で座り込んで暇を潰していた。男色自体に誰が誰と何しようと偏見も無ければ興味も無いから、逆に奇異の目で見られるのが居た堪れない。
そう考えながら目線を下げていた所で、不意にネオンのけばけばしい光が遮られたのに気が付いて顔を上げる。目の前には20代と言うには多少無理のある、青年というよりも少年が興味津々といった風でこちらを見ていた。男にしては綺麗過ぎる顔立ち、もう幾らか丸みを帯びていれば(女なら)かなり好みのタイプなんだけど。彼がこちらを見ると同様に俺も彼をまじまじと見てしまっていたようで、何男と見つめ合ってんだ、俺。
「えーと、何?俺、そういう趣味は、」
「キレイな髪してんな、銀色だ。」
さわっても?だなんて突然聞かれたら大抵普通は嫌悪感だって抱くだろうに、この時ばかりは何故か深く考える間も無いままに頷いてしまった。彼の手の方こそ特別白くて綺麗だったと云うのも理由に入るかもしれないが、流れるような動作で触れたそれは何時までもそうしていて欲しいと思う位に心地が良かった。何と無く既視感を抱いたのは気のせいであろうか。目に入った細い指が癖毛を弄ぶ様が、何故か無性に、官能的に思える。やばい、そういうつもりじゃ無かったんだけど、
「なァ、顔、紅くなってる。」
「…それ言って、どーすんの。」
「どーしてほしい?」
子供のように、それでいて艶めかしくクスクスと笑う彼に、俺から触れるのにそう時間はかからなかった。どうせ一晩だけ他人から少し親密な仲になってみる程度の事。見たところ男を相手にするのは慣れているようだし、後腐れなんて有りやしないだろう、と。
「なァ、おにーさん、」
「おにーさんじゃなくて、銀時。」
「ぎんとき?…クク、まんまじゃねェか。」
「んで、何なのよ。」
「そうそう、俺と、心中でもしねェ?」
再び余りにもさらりと言ってのけられたから、一瞬というか数瞬というか、かなり反応が遅れてしまった。少年の口から心中とは、これまた物騒な単語が聞こえてきたものである。ましてや、今日出会ったばかりの人にこうして誘いを掛けるとは。何も言えずただ口を丸く開けている俺を見た彼は直ぐに冗談だ、と先の言葉を撤回したが、顔付きやら何やらを考えても強ちからかいだとかではない気がした。
だからといって、深く関わる必要――深読みしてまで問い質す必要なんて全く無いのだ。相手がしつこく要求してくるでもなしにそんな事をすれば、まるで俺が好意を抱いてるような形になる。面倒は、御免なのだ。
「変なこと言って悪かったな、"おにーさん"」
「あー、いや、」
瞼を軽く伏せ素肌にトレーナーを着ると、(始めから誰かに払わせるつもり満々だったのだろう)持ち物なんてその身一つだからさっさと出て行かんと立ち上がる。謝られると逆に大層変な気持ちがして、そういうキャラじゃなさそうなのに、なんて初対面の相手に失礼だろうか。こちらに背中を向けた彼を一瞬引き止めそうになって、口を開けまでしてから慌て止めた。行ってほしくない、なんて。
「またな、銀時ィ」
振り向き様に最後の言葉を残した彼へと、俺の目は釘付けになる…彼というよりは、寧ろその言葉に。そういえば俺は名前を聞いていなかった筈なのに、頭に浮かんできたこの文字は、
「たか、すぎ、」
reunion(夢か幻か、それとも現実か)
----------------------
複雑骨折。
作品名:reunion 作家名:すぎたこう@ついった