小さな皿の上に四角い塊が乗っている。LED電球の光が半透明の寒天を通り抜けて、向こう側に黄色がかった模様を作っていた。臨也は椅子ごとにじり寄って箸を構えた。寒天寄せの中央には小人が閉じ込められている。身動き一つない。彼を刺激しないよう、端の角から手をつけることにする。黒い箸が半透明の塊の表面をそっと押した。寒天はやわではなかったけれど、ほんの少し力を入れれば、あっけなく欠けた。臨也はそれを慎重に摘んで口へ運ぶ。予想に反して、ほんのり甘く、爽やかな香りが広がった。これは何かの味だけれど、何であるのか思い出せない。判るより前に小さな塊は口の中で溶けて消えていた。臨也は頬杖をついた。美味しいのか不味いのかまだ判らなかった。無造作に箸を伸ばし、今度は先よりも大きく削る。寒天の中の小人が身を震わせたように見えた。実際には、固められた状態で身動きが取れるはずもなく、削り取られた反動で寒天ごと揺れ動いただけなのだけど。口の中へ放り込んでみると、リンゴの味付けを施してあるらしかった。噛み砕くとジュースのように液があふれ出て、臨也の喉を潤した。頬に当てた手を外し、小皿を時計回りに180度回す。そうすると固められた小人の表情がよく見える。臨也は初めて笑みを溢した。寒天の中にすっぽりと納まった身体は、緩く膝を抱える形で斜めに傾いていて、まるで宇宙に放り出されたようだった。なんと狭苦しく不自由な宇宙だろう。表を正面に向けられたというのに、瞼一つ閉ざすことすら叶わない。臨也は心行くまで観察することができた。半透明の黄色を透かして見た瞳はいっそう色味を増した様子で、鉱物のようだ。鉱物のような、食感がするだろうと思われた。肉はどんな味だろう。骨はどんな折れ方をするだろう。髪の毛は電球の光を跳ね返しきらきらしかった。彼の鑑賞を続けつつ、ひとさしふたさし、残り少なくなった寒天を舌に乗せ、じっくりと噛み砕いたり、押し潰しながら飲み込んでみたり。淡い甘みが唾液の分泌を促すのだった。四角かった寒天寄せはすっかり形を失い、削る場所がなくなってしまったので、もう小人を摘み上げる他なかった。皿に手を添え、寒天に薄く覆われた彼の顔を覗き込む。甘いリンゴの香りに浸りながら、息が触れるほど口を近寄せて、「紀田正臣くん」と呼びかける。すると、どういうわけか、半透明の膜越しに視線がぶつかった気がした。そして触れてもないのにその塊が震え出し、横の方から小さな足が突き出した。正臣の足に纏わり付いていたゼリー状のものが零れ落ち、一部は溶けて水溜りを作った。彼を生きたまま詰め込んだという事実をすっかり忘れていた臨也は驚いて、薄ら笑いを引っ込める。箸の一本でつついてみても碌な反応を返さないので、まだ覚醒しきらないのかもしれない。臨也は目を細め、ふふ、と声を漏らした。ふつ、ふつ、肩を震わすのにつれて箸の動きも定まらず、掴み損ねて寒天の角が潰れていった。もはや優しく支えることなどできず、正臣の体の硬い感触が箸先から確かに伝わってくる。片足だけが外気に触れて、力なくぶら下がっていた。じっと目を凝らせば、耳元にはいつもと同じピアスがはめ込まれている、気がした。その姿だけを見つめ、そっと掲げて、臨也は小さく唾を飲み込む。黒い箸の先端から豆粒ほどの寒天が滴った。それは首元のファーの深い場所に埋もれ、彼に気付かれることなくその場所に留まった。