水玉の侵食劇
人を殺したことは、ない(はずだと信じているが実際そこんとこどうなんだろう)。少なくとも私の目の前で息絶えた人はいなくって、私はそのちっぽけな事実にすがって生きている。血を浴びたことは、ある。点々と、鼻の辺りを真横に走る血しぶきを私は忘れない。
一度だけ、こんな夢を見た。身体中に、水玉のような、奇妙な黒い染みが広がっていき、どんどんどんどん広がっていき、最後に私の身体は真っ黒になってしまうのだ。あの夢を見たときはさすがに精神的に参ってしまった。夜こっそり吐いた。
点々、点々。私の身体に広がる染みは、もしかしたら本当にあるのかもしれない。皮膚の下に広がっていて、ある日いっせいに表面に出てくるのだ。
そうしたら、私はどうするのだろうか。あなたと手をつなげない。あなたと手をつなげない私なんか、いらないよ。