【BASARA3】浅ましい【家三】
篝火がぱちぱちと燃えて薪が炭に変わり崩れていく
だいぶ夜も更けこんだのだろう
きらきらと見下ろしてくる星々たちが、思い出を呼び起こす
…三成、過去に囚われて、縋って生きる哀れな男
違う
身を焦がしながら、刀を抜き放つ背中は烈士のもの
生き様そのものを賭けて彼は、
―――断崖の端までいっそ微笑んで走る
浅ましい
昔から三成の事は知っている
あまり食には拘らないし、食べること自体に興味が無いようだ
食だけに限らず、自分の事をあまり顧みることがない
見た目は涼やかで静けさを湛えているが、剥き出しの感情は苛烈そのもの
真っ直ぐなのだ 三成は自分が見つめるものに対して
尊敬、敬愛、忠義、忠誠、信頼、むしろ信仰も、ただ真っ直ぐ主君とその右腕に捧げていた
そして自分自身も左腕として存分に振るい、二人の死後も左腕で在ったことを誇り刀を握る
何て生き難い、そう思ったが目を離せない
石田三成、きっと彼は地上に生まれていい人ではなかった
美しいのだ、そういうものに疎い自分が虜になる程、悲しいほど美しい
…昔、三成を庇ったことがあった
思い切り怒られたが、それが三成の自尊心から引き起こされたものではないと知っている
すぐに包帯と薬を投げてよこしてくれた、それで充分に理解できる三成の心根
少しずつ許され与えられるものは、すぐ他人の懐に入れる自分には酷くもどかしくて
じらされて、同じくらいひどく焦がれた
今、敵対しても同じくらい焦がれている
際限なく注がれる憎悪と殺意が、唯一無二だと思うと嬉しくもあり寂しくもあった
隣り合って語らえる日々は終わったし、もうそれだけでは我慢が出来ない
無数の細い糸が沢山ゆるく結ばれている自分は断ちたくて堪らないのだ、三成の命綱のような絆を
とっくに踏み越えてしまった留まることを知らない感情
変わることなど無ければよかった
三成、おまえが望んだように変わることなどなければ…
そう悔やんでも、もう遅い
三成を殺したい、命をではなく存在を
ぶつりぶつりと三成は生きたままで繋がりを全て毟り取る
最後に残すのは三成を縛る、赤い糸
がんじがらめに縛った後は閉じ込めてしまえばいい
その辺の輩を影武者に、石田三成に仕立て上げて殺せば世間体はどうにでもなる
逃げるならば足の腱を断ってしまおう
声帯だって斬っても構わないだろう
両の目も他を見るなら貰ってしまおう
ぐっと拳を握って分かる、今の自分ならそれが戯言ではなく本当に出来ると
この腕の中に、あの三成を閉じ込めることが出来る
何をしてもいいんだ
自分はもう、狂っている
けど欲望を、野望をのろいやまじないのように言葉にして紡ぐいだ
願いも、ただの偽善も声を大にして叫んだ
思い出して動けなくなる、壊したのは自分のこの腕だというのに
言葉の強がりは大きな不安の波として心に帰ってくる
決めたのは、自分自身だというのに
きらきらとした二つのものに挟まれてもう動けない
結局は天秤にかけて三成の信頼を棄てた、のに欲しくて堪らない
夜の闇のその向こう、見えないけれど対する陣に三成はいる
朝を迎えなければいい、ずっと時が止まればいい
自分の黒い腹の中を認められない
三成を秤にかけて棄てたことも認められない
今も、分かりあえる和解できると思い込みたい自分がいる
きっとやみくもに手を伸ばしてしまう
嗚呼、なんて浅ましい
(これを愛と呼んではいけない)
作品名:【BASARA3】浅ましい【家三】 作家名:さおう