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【ゲルマン新刊】LILIE【リヒ愛され本】

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あまやかに、いじわる(スイス×リヒテンシュタイン)




「兄さま」
 リヒテンシュタインの高くて細くて可愛らしい声に呼ばれ、スイスはゆっくりと振り返る。窓辺の白いカーテンが揺れており、カーテンを揺らした犯人である風は妹のスカートの裾をも弄んで過ぎ去っていった。
「兄さま、お傍へ行ってもよろしいですか?」
 先程風に遊ばれたスカートの裾を握りしめ、リヒテンシュタインは少し頬を朱に染めた。スイスは何を恥ずかしがる必要がある、と微笑んで、妹に向かって両手を広げた。いつもの鉄面皮は、いとしい妹の前では何の効力も発揮しない。
 ぱた、と小さな足音を立てて、リヒテンシュタインは兄が広げてくれた手に触れる。触れるだけ、隣に座るだけのつもりでいたのに、スイスの両腕は簡単に小柄な妹を抱きしめてしまった。ソファーに座ったスイスの膝の上に、両足をそろえて横向きにちょこんと座る。兄の腕の中にすっぽりと収まってしまったリヒテンシュタインは、驚きながらも嬉しさに口元をほころばせ、淡いピンクに染まった頬を兄の胸にすり寄せた。
「どうしたのだ。今日は、その……やけに甘えるのであるな」
「……いけませんでしたか?」
 腕の中で不安げに瞳を揺らす妹に、スイスは慌てて首を振る。
「そのようなことはないのである! ……ただ、珍しいなと」
「……兄さまが、好きです。お慕いしている方のお傍に行きたいと願うのはおかしなことですか?」
 くるりと可愛らしい瞳がスイスを見上げ、揺れた。やわらかい、きんいろの前髪の下から見上げてくる。そのみどり色に視線を合わせると、ふいと逸らされてしまった。
 スイスは、リヒテンシュタインに弱かった。つい数十年前に『妹』として迎え入れたこの少女に、弱かったのだ。ほんとうに。だって、いもうとは、こんなにもかわいい。
「リヒテンシュタイン」
 光る石、という意味の名前。華やかな名前に想像されるようなきらびやかさよりは、むしろ手の中にそっと収まるような石なのだろうと思った。少し重たくて、けれど片手に収まり、きらきら、というよりはきっと、光にあたって初めて輝く石。宝石箱の中よりは、その横でやわらかい日光を浴びて光る、小ぶりな石なのだろうと思った。
 その名を、呼ぶ。
「……はい、お兄さま」
 ちいさく、素直な返事。細くて甘い声が好きだった。とても。リヒテンシュタイン、ともう一度呼ぶと律儀に、はい、お兄さま、と返事が来る。何の疑いも抱かずに兄の膝の上で兄を見上げるリヒテンシュタインに、スイスは頬の辺りが熱くなっていくのを感じた。それを誤魔化すように、スイスは片手をリヒテンシュタインの頭に、片手を腰の辺りに回し、ぎゅっと自分の体に押し付けるように抱きしめた。あ、と腕の中でちいさく声が上がる。
「おにいさま」
「……おまえは、すこし」
「え、?」
「……なんでもないのである」
 自分らしくない、と思った。『すこし、そのかわいさを抑えてくれないと、こまる』。そんな言葉が口からぽろりと零れ落ちそうになったことに、自分自身で驚いた。ほんとうに、この『いもうと』という生き物には、振り回されてばかりだとスイスは思っていた。彼女にはそんなつもりは微塵もなくて、おそらく自分が勝手に彼女に振り回された気になっているだけなのだろうとも理解していた。ただ、好きだった。
 胸の辺りに彼女の頭がくるように抱きしめてしまったのは失敗だったかもしれないな、と、ぼんやり考えた。とくとく脈打つ心臓は常よりも早足で、その音とともに考えていることまで伝わってしまいそうだと、非現実的なことが頭の中を掠めた。