煌めくちいさな、
ポロロロロ、と音が聞こえた。森の方向からピアノの音が鼓膜に響く。大胆で繊細とは少し違う音色で、リズムも外れていたりする。けれどもそれ以上に聴衆に気づかぬ様に瞬時にアレンジし、コンクールのような楽譜をなぞっただけではない独自の世界観をもち、そして愛おしいと想う感情が湧き上がる。
一体この美しい音色は誰が生み出しているのだろうか。誰が弾いているのかとニールは森へと入り道なき道を歩き続けた。この森は一度入れば抜け出せないとか、森のお化けが住んでいるとか、一体誰が言い出したかどうかもわからない根も葉もない噂があった。けれどもそんな事は気にも止めずひたすら森の奥へと進み続けた。ピアノの声は段々と大きくなり、メロディが自然と耳打つようになる。
(あ、きらきら星変奏曲だ)
漸く視界が映え、森の中心に着くとピアノのと音色を生み出す少年が見えた。ポロロロと零れ落ちる音階は軽快で第9変奏と移行する。彼の瞳は閉じていても鍵盤を弾く手は止まる事を知らない。時たま弾き間違えたと思えば、独自のアレンジで変奏曲を自分の世界へと変えているのだ。鼓膜だけではなく、心まで響かせる演奏であった。
胸に訴えかけてくる演奏をする彼の、声をその瞳の色を知りたい。自然とニールは少年の領域へと足を踏み入れた。パキッと小枝をおる音がしても彼は気付かない。世界に、浸かっているのだ。
風が音に乗って森の樹々を揺り動かす。ゆっくりと温和な印象を持った音達は最終変奏に向かっている。もっと彼の世界に浸りたい、そう感じても伴奏は三拍子へと変化していく。第12変奏曲はアダージョに乗って終盤へと近付いていく。
彼の少し離れたところでニールは足を止めた。力強いクレッシェンドで幕を閉じ、演奏し切った少年の小さな手は些か上げたままで少年は空を見上げる。ピアノと彼を太陽の光は少し離れたのようにキラキラと照らす。自然とニールは少年へ賛美を込めた拍手を送った。ようやく他者に気付いた少年は此方に振り向き訝しがる視線を向ける。ニールは開かれた瞳は夕焼けよりも濃い緋色で綺麗だと思った。
「...誰だ、あんた」
「ー俺はニール、勝手に聴いちまって悪かった。でも本当に良かった、お前さんのキラキラ星。名前を教えてくれないか?」
「...刹那だ。」
これが、ニールと刹那の出会いだった。ニール自身感動的なものだったのだか、刹那にとっては違うものであったとかないとか。
(俺とエクシアの邪魔をしていたら唯じゃ置かなかった)
(エクシアっていうのか、あのピアノ...)