今日の勝敗
私は11時をまわろうかという頃、眠さで鈍くなる意識をひきずってやっと家に帰ってきた。いつものことだけど、そこには愛しい彼がいた。
あ、やばいな、と思った。
「ちょ、きょうは」
「もう限界」
「私眠いんですよお」
「うん」
しまった、組み敷かれた。
きっともう八割方だめだ。
でも私は睡眠確保の為に粘った。
今日は私が勝ってみせるんだから。
「昨日徹夜してたから、今日はもうだめなの、限界。だから」
「だめです」
「…まだ何も言ってない!」
「おとなしく寝かしてください、だろ」
「びっくりするほどわかってるじゃん…」
「うん、サクラのことだから」
「?」
「サクラのことだから、全部わかるよってこと」
「…なにそれえ、ずるい」
サスケくんが真顔で言うもんだから、つい頬が緩む。
彼のこういう所作が愛しくてかわいくて仕方ないと私が思うのを、強かな彼はきっと知っているだろう。だからこうして猫をかぶって私を揺さぶる。彼はいつも以上に素直になって、尻尾を振って、私に甘えてくるのだ。全くやっかいな人だなあといつも思う。
「こういうの嫌?」
「いやじゃないよ…」
「ほんと?」
「嘘なんかついても意味ないじゃん、わかるんでしょ」
「うん」
「…あ、もうだめ」
「え、寝ちゃうの」
「お願い、今日だけ」
「だめだよ」
「もお…」
そういって彼は私の首筋に吸い付く。だめだよ、汗かいてて汚いから、というと、いいよ、全部サクラだもんとわけわかんない返事をくれた。ああ、今日も私は負けたのか。彼を拒む手の力を抜いて、私は彼のなすがままになった。眠さと愛しさが入り混じって、ふわふわ浮いているように感じた。
「ごめんなあ、強くて」
「何が?」
「性欲」
「…ばか」
「頑張って早く終わらせるよ」
「え…」
「っていうと、サクラは嫌がるよな」
「ひどい、試したのね」
「そういうとこ、かわいくて俺好きだな」
「もう知らない…ん」
「そんなこと言うの?」
「…ん、ふう」
ねっとりと、深く、濃く、甘く。何度も何度も口付ける。
なんかお菓子の宣伝みたい、それにしては官能的だなあ、などとどうでもいいことが脳裏をよぎる。距離を置いて彼との行為に耽る私を見る私は、また同じことを、ばかみたい、と鼻で笑ったようであった。
「サクラ」
「ん…なに」
「…好きだ」
「どしたの、急に」
「いや、なんとなく」
「ふふ、変なの。でも、嬉しい」
「こんなので?」
「うん、嬉しい」
「ふうん」
「私も、好きだよ」
そうして私は彼に軽く口付けた。
きっと明日は遅刻だなあ、そう思ったけれど、彼をあまりに愛しく思うせいで頭が使い物にならなくなってきたので、もういいやと思った。もう、勝たなくていいや。だって私は彼が好きだから。