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淫靡たんの暴走

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「たいくつ」
 硝子球のように虚ろな翡翠色の瞳。華奢な方と項を小首に傾げて(その弾みで唯一身に着けているサイズの合わない白いシャツがずり落ちてきた)、事も無げに、しかし気だるそうにその人物は呟く。
 ……この状況のどこがどう、退屈なのか教えて欲しい。
「シキがいないんじゃ、つまんない」
 口にするのも恐れ多い統一ニホン国元首の名を、なまめかしい唇が象る。
 華のようだ。甘ったるい蜜の香りで惑わせて、けれど近づいた瞬間に棘だらけの毒壺に陥るような。
 一目見た瞬間に欲情してしまうだろう。
「おかえり。ねぇ、『アキラ』あそぼう?」
 ――それが、自分の顔でなければ。
 白シャツを一枚まとっただけの『アキラ』が、淫靡に微笑んだ。


 言葉を失う、とはまさにこのことをいうのだろう。
 自室のドアを開けた瞬間、飛び込んできたのは見慣れた景色の中にたたずむ見慣れない(あるいはある意味では見慣れすぎた)人影。
「お…お前は誰だっ!?」
 月並みな言葉だが、そんなことくらいしか言えなかった。
「アキラ」
 自分とまったく同じ顔をした、しかし自分とまったく異なる存在が、そこに、いた。さも当然のように彼は自分のことを『アキラ』だと言ってのけ、しかも自分はシキの所有物である、とも宣言して見せた。
 なにかもう、このわけがわからない状況を頭が理解することを拒み始めてきていたのだが、確かに己とまったく同じ顔をしていることは事実だし、その臍に穿たれたピアスにも見覚えがあった。自分の体に埋まっているのと同じものだ。
「どう……いう、ことだ…?」
 とりあえず無理に話を聞き出してようやく、どうやらこの『アキラ』がいうなれば自分とは異なる時間軸に存在するものなのだということが伺い知れた。というか、そちらの世界のシキと自分はいったいどんな道を歩んできたというのだ。今の自分だって軍の中で血塗られた道を歩む覚悟は無論しているが、それとは別次元にとんでもないことになってそうな気がする。
「それで、シキがかえってこなくてたいくつだったから『そーすい』のところに来たんだけど……」
 だからどういう理屈でなぜここにお前がいるのか。
「こたえに……なってない」
「おれ、アキラでもいいよ。ねぇ、あそぼう?」
 ……しかし、ふと興味を持った。
 総帥意外に抱かれる気など無論ない。ないが。
作品名:淫靡たんの暴走 作家名:黄色