桜 〜別れ路〜
「驚いたな」
原田と永倉の二人を見た歳三の第一声はこれだった。
刻は昼を廻ろうとしていた。
千鶴は少し遅くなった朝餉兼昼食を準備して来た。
それに加え千鶴は、躯が温まる様に昼間だがお酒も用意してみた。
昼になっても一向に雪は止みそうに無かった。
「で、さあ佐之の奴自分だけ狡くてよ」
「それは別に俺の所為じゃないだろう」
「相も変わらず永倉、お前えは懲りねえな」
「でも、永倉さんらしいです」
他愛も無い会話が続く。
四人の声が部屋に響き渡る。
それは笑い声だったり、莫迦にした様な声だったり、時には怒った声だったり。
どれだけ話したのだろうか。
何時の間にやら陽は傾き始めていた。
「でも、驚くだろうな」
原田が少し杯を傾け独り言の様に云った。
「原田さん、何がですか?」
「土方さんと千鶴が夫婦になったなんて、彼奴等が知ったらどんな顔するやら」
「だよなあ。きっと平助なんて泣いちゃうかもしれないな!総司なんて絶対土方さんに厭がらせしまくってさ。斉藤はそれを制止して。最後には近藤さんに怒って貰って、、、」
陽が陰って来た所為か、四人の顔に翳りが見えた。
昔はこの中に藤堂がいて、沖田がいて斉藤がいて近藤がいた。
他にも新撰組の者達が煩い程に、いた。
今は、たった四人になってしまった。
「時化た面してんじゃねえよ」
土方はまるで自分自身に云うかの様に口を開いた。
「人ってのは早かれ遅かれ何れどんな奴でも死ぬ。一々哀しんでたら切りがねえよ」
「おいおい、土方さん。流石にそんな云い方ないんじゃないか」
永倉が険しい顔で土方を睨む。
「新八の云う通りだ。何れ、人は死ぬかもしれない。だが誰かが死ねば哀しむ、当たり前の事だろう。俺たちは生きてんだ。死んだ奴らを念って何が悪いんだよ」
「・・・下らないな。人は死んだらそれまでだ。何も後には残らねえんだよ。いた人間を何時までも念い哀しんで何になる」
土方はそう云うと部屋から出て行ってしまった。
原田が呼び止めようとしたが、千鶴に止められた。
原田の肩触れ、ゆっくりと首を横に振った。
外はまだ冷たい雪が降り続いて逝くー