桜 〜別れ路〜
しんっと、水を打った様に部屋は鎮まり返っていた。
「すみません、お二人共」
申訳無さそうに千鶴は頭を下げた。
「千鶴が謝る事じゃないだろう」
原田は困った様に苦笑する。
「そうだぜ、千鶴ちゃん。悪いのは土方さんだ」
永倉はまだ腹の虫が治まらないのか顔が不機嫌そうに見える。
「いいえ、歳三さんを責めないで下さい。歳三さんがああ云う風に云ったの多分・・・私の所為なんです」
「千鶴ちゃんの所為って」
「桜、今年も一緒に見ようって約束したんです 」
「でも、今年は一緒に見れないかもしれません 」
「 もう、歳三さん長くないんだと思います 」
それは云わずとも命が。
千鶴の言葉に二人は顔を顰めた。
「 最近良く独りになっても泣くなとか、イナクなったら自分の事は忘れて幸せになれとか、そんな事ばっかり云うんです 」
ー 人ってのは早かれ遅かれ何れどんな奴でも死ぬ。一々哀しんでたら切りがねえよ ー
「 だから 」
― 下らないな。人は死んだらそれまでだ。何も後には残らねえんだよ。いた人間を何時までも念い哀しんで何になる ー
「 自分がイナクなっても泣くなってそう、 」
千鶴の瞳から止めどなく涙は流れていく。
言葉がそれ以上出なかった。
「たく、土方さんらしいってか何て云うか、、、、、、本当不器用な人だな」
原田は溜息を付き苦笑した。
「ああっ!もう何か苛ってするよな。土方さん、もっとハッキリ、ズバッて云えって感じだよな」
永倉は頭を乱暴に掻きむしる。
千鶴は繭を寄せ、少し笑うと先ほどまで歳三が腰掛けていた場所に眼を遣った。
「でも、それも歳三さん成りの優しさなんだと思います。何時も私の事ばかり、、、私の事ばかり心配して下さって。でも、、、幾ら歳三さんでも 恐いですよね。『死』が逼って来るのを感じながら日々を過ごすのは、本当は凄くすごく恐い筈なのに」
千鶴は白く成る程に手をぎゅっと握り締めていた。
「笑ってくれるんです」
でも、それが辛くてと千鶴は囁く。
ぼんっー
「・・・?」
「千鶴、もう直ぐ永い冬も終わる。そしたら花見でもしよう。俺と新八と千鶴とそして土方さんと、な?」
「原田さん・・・」
「お、良いなそれ!そしたら酒を浴びる程呑むぞ!!な、千鶴ちゃん!」
「新八お前なあ」
「くすくす、でもたまには良いですね」
千鶴は眼を細め笑顔を浮かべた。
「千鶴」
「はい」
「見えない明日に怯えるのも解る。だが土方さんは『今』を生きてるんだ。『今』お前の隣に居る。その瞬間を悔いの無い様に共に生きれば良いー』
「 はい 」
そして、永いながい冬は終わりを迎えた。
春の訪れを知らせるかの様に鳥達が鳴き交う。
庭の桜が蕾を付け、もうすぐ花開くー