桜 〜別れ路〜
はらり はらりー
はらり、また一枚はらりと桜の花弁が空を舞う。
生暖かい風、満開の桜。
地面は桜の花弁で敷き詰められていた。
まるで桜色の敷布でも敷いたかの様に。
その花弁を掻き分け土を懸命に掘って行く。
「千鶴ちゃん」
「ーーー」
永倉が呼ぶが千鶴は聴こえていないかの様に、返答を返す事はない。
何度、原田と永倉が呼びかけても千鶴は答えず只土を掘り進めていた。
次第に陽は傾き空が少し紅く色付く。
どさっー
原田はそっと音お立てて歳三を穴へと降ろした。
「土方さん、灰には成なづに済んだんだな」
視線を千鶴に移し、思う。
千鶴は『鬼』だ。
その血を分け与えていたなら、、、それがきっと土方の姿を灰にする事なく留まらせてくれたのだと。
彼女の想いが土方の姿をつくり出したのかもしれない。
「千鶴、お前・・・」
土を掴んでいる千鶴の手は震えていた。
「、ません」
「千鶴ちゃん・・・」
「千鶴」
何かを云い掛けた千鶴を二人は見遣る。
震えた手はそのままに俯き必死に耐えている様に見えた。
「私、、、、、、出来ませんっ」
握りしめていた、手の平から土が零れ落ちていく。
歳三さんに土を掛けるなんて、出来ないー
どさっー
鈍い音が響く。
それは千鶴が穴の中へと飛び降りた音。
「ーーーーーー」
原田も永倉も何も言葉が出て来ない。
何を云うべきか、何て云ってやれば良いのか解らない。
歳三、さんー
そっと、優しく何度も、何度も、繰り返し、繰り返し。
頬を撫でる。
泣かないと約束をした。
だけど、もうー
「っ嗚呼あぁぁーーー」
ずっと我慢をしていた念いが溢れ出して行く。
歳三を抱き締め千鶴は泣き縋る。
その姿は見るのが痛々しい程、悲痛なモノだった。
次第に紅く染まった空は薄暗くなっていく。
陽が傾き日の終わりを告げようとしていた。
それでも千鶴は何時までも、その場を動く気配は無い。
「千鶴、風邪を引くぞ」
春先と云えど陽が沈めば風も冷たく、肌寒くも感じる。
原田はそっと千鶴を手を伸ばし引き上げようとした。
「っ嫌!!」
千鶴は首を横に振り泣きじゃくり抵抗したが、男の力に叶う訳もなくあっさりと引き上げられてしまう。
「放して下さいっ!!嫌ですっ、私、わたしは」
歳三さんと一緒に居たいんですー
『千鶴』
「え」
『余りこいつ等を困らせるな』
「歳三、さん」
聞こえる、貴方の声がー
『約束を忘れたのか?大丈夫だ、また、俺達は逢える』
「でもっ」
『迎えにいく。どんな世でも、お前を見つけ出して逢いにいく。そしたら。今度こそ』
『お前を幸せにしてやるよ』
「千鶴、おい!」
原田は意識が飛んでいるいる様子の千鶴を揺すり名前を繰り返す。
「あ、私・・・」
「大丈夫か、千鶴ちゃん」
「・・・だいじょうぶ、です」
少し意識が朦朧とする。
千鶴は歳三を見遣り笑みを零した。
そして。
「土、掛けましょう」
「良いのか、千鶴・・・」
「このままだと歳三さん、可哀想です。まだ少し風も冷たいから、、、私はもう大丈夫です」
三人でゆっくりと土を掛ける。
少しずつ歳三の姿が見えなくなって逝く。
土を掛け終わり、千鶴は自らの髪に刺していた簪を手向けた。
薄紅色の桜を象った、簪ー
「歳三さん、私待ってます。何時までも、ずっと・・・」
貴方が迎えに来てくれる刻をー
『千鶴』
『何ですか?』
『眼瞑ってろ』
『?』
『良いぜ』
『綺麗、、、紅色の簪。あ、これ桜ですよね』
『ああ、お前好きだろう。貸して見ろ、刺してやるから』
『はい!』
『千鶴、約束する』
『約束、ですか?』
『人ってのは輪廻転生するって聞いた事がある。だから、もし生まれ変わったらお前を迎えに行く。どんな世でも必ず探し出してそしたら』
『そうしたら?』
『二度と千鶴を放せねえ。そんでもってお前を幸せにしてやる』
『はいー』
また貴方に逢える日を願って私は待ち続けます。
だからー
終わり