桜 〜別れ路〜
季節は夏の終わり
夕闇の中、蜩の声が響き渡る。
暑さも幾分か和らいで来た。
「歳三さん、お夕食の準備整いました」
千鶴は歳三の部屋の障子を少し開け声を掛ける。
「ああ」
「蝉の声が凄いですね」
千鶴は少し苦笑混じりに笑う。
歳三は立ち上がり部屋を出ると千鶴の傍へ寄り、縁側に腰掛けた。
「歳三さん?」
「蜩、か・・・」
鳴り止む事のない蝉の声。
それは煩い程に聞こえて来る。
「蝉の一生は短いからな。きっと、最後の力を振り絞って鳴いているんだろう」
「・・・・・・・・・何だか、哀しい・・・ですね」
千鶴は泣きそうな顔で笑みを浮かべていた。
だが夕闇の中、歳三からは千鶴の表情は良く見る事は出来ない。
それでも、今千鶴がどんな顔をして何を感じているのか歳三には手に取る様に解った。
「千鶴」
そう云いながらそっと抱き寄せた。
着物の袖をきつく握りしめた、痛い程。
命はとても儚くてとても脆いモノ
今の二人にはそれが痛い程に身に沁みる
この煩い程に鳴き続ける蝉達は、明日にでも命突きて死んで逝くだろう
それはまるで二人の逝く先の様にー