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櫛の日

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臨也の仕事が一段落ついたので、帝人は紅茶を淹れるためにキッチンへ立った。お茶請けと一緒に戻ると、臨也は帝人が座っていた辺りに腰を下ろしていた。ちょっとこっちに座って、と言って指差したのは臨也の足の間、つまりはラグの上だった。何をされるか想像もつかない、というかあまり想像したくない帝人はテーブルの離れた位置に盆ごと置くと指示された位置に座り込んだ。

「……臨也さん」
「なに?」
「こっちの台詞です。何してるんですか?」
「帝人君の髪を梳いてる」

 確かに頭皮に感じるのは櫛の感覚だった。さくさくと短い髪が梳かれていく感覚は心地いいのだが。

「痛いです」
「櫛、苦手?」
「髪短いんで使わないんですよね」

 だからでしょうか、と帝人が言うと、そっかー、と間伸びた声が返ってくる。それでも臨也の手は止まらない。

「まだ続けるんですか?」
「うん」
「……はぁ」

 わざとらしく溜め息をついてみても臨也のやる気は削がれなかったらしい。彼の気が早々に済んでくれることを帝人は祈るばかりだった。
作品名:櫛の日 作家名:千砂