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忌々しい不意打ち

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青葉が自覚していた臨也に対する感情を、当の本人に指摘されてからしばらく経った。
 あまり顔を合わせたくないと思っている青葉の心とは裏腹に、臨也はふらりと青葉の前に現れるようになった。そして少し会話をするだけで帰っていく。それはもう、楽しそうな笑顔で。それが作っているものなのかもしれないが、臨也は表情を巧みに使いこなすので彼の真意は分からないままだ。

 そして今日は、臨也と連れ立って歩いている。正確には、一緒にいると思われたくなくて離れて歩いていたのに手を引かれてしまったので仕方無しに隣を歩いている、という状況だ。手は当然、振り払った。
 何故こんな事になっているかというと、

「君の事を知りたいんだよね、色々と」

 という臨也の一言からだった。情報屋なんてものを生業にしているのだから知らないことなどないのだろうが、青葉はそう言って断ることが出来なかった。ポケットにナイフを持っていることを示唆されたからだ。ブルースクウェアの仲間や帝人に助けを求めるなんて今の青葉には出来ないこと。その上凶器を持った成人男性に挑む方がもっと無理だった。青葉は喧嘩には弱いからだ。

 どこか店に入るわけでもなく、池袋を歩き回る臨也に青葉はただついて行くだけ。
 その間に臨也は青葉に沢山の質問をした。それは学園のことだったりブルースクウェアのことだったりダラーズのことだったり、青葉自身のことだったり。臨也は知らなかった、という風に返事をや相槌を打っているが、青葉にはどれもわざとらしく思えてくる。
 自動販売機の前で足を止めた臨也が、何がいい?と青葉に尋ねた。そんな小さなもので借りを作りたくなくて自分で買おうとしたが、付きあわせてるんだからと笑顔で押し切られてしまい、適当にお茶を頼む。うんと返した臨也は先に青葉の分を購入し手渡してから、自分の分――ストレートティーだった――を購入した。さらっとこんな風に流されてしまうのが悔しくてたまらない。それが様になっているのも、そう思ってしまうことも。

「そういえば、君から名前呼ばれたことないよね」

 ボトルの三分の一を早々に飲み干した臨也が思いついたように尋ねた。どうして?と隣でお茶に口を付ける青葉に視線を移す。

「臨也さん、って呼びたくない?」
「煩い、折原臨也」
「かわいくなーい」
「結構です。俺は帝人先輩じゃありませんから」
「でも、それはそれでいいかな」
「は?」

 何を気持ち悪いこと言っているんだ。
 そうオブラートにも包まず言ってやろうかと思ったのに、手というより腕を先ほどより強い力で握られ半ば引きずられるようにして歩かされる。急なことで飲みかけのボトルを落としてしまい、拾いあげる間さえもなかった。何をするんだ、どこへ行くんだ、と声をかけてみても聞こえていないかのように無視される。手を振り払おうにもびくともしない。
 すいすいと人の波を避けていた二人だったが、いつの間にか人通りの少ない路地裏を歩いていた。すれ違う人もいなくなった頃、また唐突に歩みを止めた臨也に制服の襟を捻り上げられ壁に押し付けられる。

「っうあ、何す、……っ!」

 それ以上は何も言えなかった。壁に押し付けられた衝撃からではない、口を塞がれたからだ。……臨也の、唇に。それはそれで衝撃的なもので、開いたままだった唇から舌が侵入してくる。自分のものではない熱、唾液、質量を持ったそれを気持ち悪く思い顔を反らそうとしても、顔を上向きにするように襟を握られており変えられない。抵抗しようにも、握られたままの左腕と襟はそのままに、膝を足の間に割り込まれ身動きが取れなかった。唯一自由の利く右手で抵抗してみるが、臨也の肩を押しているのか縋っているのか分からないほどに小さなものになってしまう。思うように酸素を吸えない青葉の頭は通常の半分程度しか動いていない。

 青葉の膝が落ちそうになっていることに気付いた臨也が開放してやると、その場に座り込んで浅い呼吸を繰り返す。袖口で荒々しく口を拭うことも忘れてはいなかった。満足そうに口角を吊り上げた臨也が、膝を折り青葉の耳元で囁く。

「帝人君にはしたことないんだよ?」

 嬉しい?と続けて囁かれ青葉の肩が震える。力の入らない膝はそのままに右の拳を繰り出してみるが臨也は子どもと遊ぶようにひょいと避けると、青葉に背を向けて元来た通りへと消えていった。
作品名:忌々しい不意打ち 作家名:千砂