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あやかし物語

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「はあ?妖怪?」
「はぁ…妖怪」
 それぞれ黒と緑の双眸が瞬きを繰り返し、声の高低の差があれど同じような反応をしてしまった。
 人通り賑わう通りの一角の茶屋でのんびりと茶を啜って団子を齧っていると、突然現れたこどもに妖怪を退治してくれといわれたのだ。
 黒目の青年は団子を腹に収め終えると、改めて目の前にいるこどもを見た。
 すらりとしなやかな手足に、好奇心旺盛そうな大きな茶色い瞳。くるん、と一本だけ毛先が飛び出ているのが特徴的だ。
 今にも泣きそうな顔でじぃとこちらを見上げてくる少年に、さらりと黒髪を揺らして青年が問いかけた。
「その妖怪退治を、なぜ私に?」
「……昨日の夜、妖怪と一緒にいたでしょう」
「昨日?いえいえ、私はお宿にずっといましたよ」
ねえ、薔薇(そうび)さん。少年から視線を外し、隣に座り団子を齧り我関せずという顔をしていた旅の連れに声をかければ、少しだけ嫌そうに眉をひそめた薔薇が軽く顎を引いた。ほら、ね?と首を傾げてみせれば、少年は着物をぎゅうと握りしめてますます泣きそうな顔になるものだから、流石の青年も無碍に出来ず、話を訊くことにした。

 少年は雪と名乗り、青年も改めて自らを菊と名乗った。
 雪曰く、夜な夜な家に現れる妖怪がいるとのこと。夜な夜な家を訪ねてくるらしい。
「訪ねてくんのか?妖怪が?」
「うん……」
 胡乱な声で聞き直せば、一歩引いた雪がこくりと頷いた。薔薇さん、怖がっていますよ、と小さく指摘されて薔薇は口内で舌打ちをする。別に怖がらせたつもりは…。不機嫌そうに黙り込んだ薔薇に思わず苦笑を滲ませかけたが、そんなことすればさらに機嫌を損ねかねない。表情を取り繕いながら、薔薇に変わって質問を続ける。
「家を荒らすことは?」
「ううん、ないよ。ただ、家の前にいつも来るの。おれと兄ちゃんはそれが怖くて」
「兄上がいらっしゃるのですね」
「うん。おれと兄ちゃんはふたりで暮らしているんだ」
 さらりと告げられる雪の身の上話に菊は一瞬、口を閉ざしたがすぐにふっと表情を和らげた。
「それは、さぞ怖かったでしょう」
「おれたち村外れに住んでいるから誰にも助けを求められなくてっ……」
 このご時世、両親をはやくに亡くしこどもだけが生き延びていることが少なくはない。飢饉や伝染病によって幼子や老人が命を落とすこともよくある話だし、戦で巻き込まれた村々の人間が死ぬこともある。
 幕府の御膝元である江戸にいればまた少し状況が変わるだろうが、あの場所は武士が顔を利かせていて唯人には居心地悪い。とは、菊の感想だが、どちらにせよこの少年が江戸へ赴くことはままならないだろう。なにせここは丹波なのだ。こどもの足では江戸は遠すぎる。
「菊は妖怪退治してるんじゃないの?」
「私は―――」
「菊」
 こどもの問いに、菊が答えかけると名を呼ばれてそれを遮られた。肩越しに振りむけば、口をへの字にした薔薇が腕を組んで睥睨していた。
 余計なことに首を突っ込むな。暗にそういわれている気がしたが、しかしここでこのこどもを突き放すのも話を聞いてしまった以上、引くに引けないように思える。
 縋るような視線と、脅しの利いた視線に挟まれて身動きが取れなくなった菊がほとほと困りだしたときだった。
「雪っ!」
 鋭い声が空気を裂いて響き渡る。あ、兄ちゃん!ぱっと振り返った雪が叫ぶ先を見やれば、雪と顔立ちがそっくりな少年が険しい表情をして立っていた。雪よりも色味の濃い茶の目が菊を睨みつけ、ぐいと雪の腕を引っ張り己の方へと引き寄せて警戒心を剥き出しにする。
「なんだお前ら」
「いえ、私たちは別に怪しい者ではありませんよ」
 軽く両手を上げて菊がいうと、雪が慌てて口添えした。
「おれから話しかけたんだよ、兄ちゃん。この人たちは悪くないよっ」
「こんの馬鹿弟っ!見ず知らずの奴に気安く話しかけるんじゃねえっていってるだろうが!」
「ご、ごめんなさい……!」
 拳骨でも飛び出しそうな剣幕に、雪が頭を抱えて謝る。兄はふぅっと息を吐くと、菊にちらりと視線を投げた。先の警戒心が薄らいでいるその視線に、菊も相手を刺激しないように視線を合わせた。
「弟が迷惑をかけた」
「全くだ」
「……薔薇さん」
 ぼそぼそと告げられた台詞にすかさず薔薇の即答。菊は若干呆れたように連れを見た。しかし相手は悪びれもせずつんとそっぽを向いている。これではどちらがこどもか分かりやしない。そんな思いを胸中に秘めたまま、菊は正面にいる兄弟に改めて顔を向けて笑顔を作った。
「話しかけられたのも何かの縁でしょう。力になれるかは分かりませんが、もしよろしければ今晩あなた方の家へ泊めていただけませんか?」
「ほ、本当っ?」
「おま、おい菊!」
 ぱあと顔を輝かせて喜ぶ雪に、笑顔のまま頷いた菊は背後で文句を垂れ流す薔薇の脛を軽く蹴ることで黙らせた。








作品名:あやかし物語 作家名:アキ