独占欲と夏の魔法
臨也のマンションに来ていたが、臨也のその一言で急遽遊びに行くことになった、が
(…あんな格好もするんだ)
今の臨也の格好は、薄手のパーカーに黒のインナー
いつも着ている黒のジャケット以外の格好で出掛けようとしている臨也を、帝人は初めて眼にしていた
ジャケットの袖でいつも覆われていた腕は前腕だけ外に晒し、白のファーといった付属品が無いためか白い首や鎖骨がよく見える
臨也さんはよく僕の肌を白いって言うけど、自分も大概白いよね、とそこまで考えてはたと思考を止めた
(ど、どどこ見てるんだ僕の馬鹿!これじゃあ変態じゃないか!)
かぁ、と赤くなった頬を隠すように両手で顔を覆う
アイスティーの入ったグラスを手に持っていた為、両手がひんやりとしている
余計に顔の熱を感じて、帝人は自己嫌悪の溜息を吐いた
ソファーに座り込み、一人ぐるぐると思考を繰り広げていた帝人に準備を済ませた臨也は近付くと、その細い身体を後ろからぎゅうと抱きしめた
「わっ…臨也さん!」
「ごめんねー待たせて、じゃあ行こっか」
抱きしめてくる腕が直接触れ合う
ひんやりとした臨也の腕に触れて、帝人は自分の熱が上がった気がした
「ん?どうしたの帝人君」
「な、なんでもないです」
「……顔赤いよ」
「気にしないでください…!」
半ば泣きたい心地になりながら、帝人は臨也の腕から逃れようともがく
しかし臨也がそれを許す筈もなく、さらに抱きしめる力を強くした
「い、臨也さ…っ」
「ねぇ、なんで顔赤いの?言ってみなよ、聞いてあげるからさ」
「聞かなくていいですから…!」
「言わないとこのまま押し倒すよ」
「なに言ってんですか……ばかですか貴方は」
「だって気になるじゃん」
そう言いながらこんな悪どい笑顔を浮かべていてもかっこいいのだから、美形ってのは卑怯だ
そんなことを考えつつも、帝人の心の奥ではある一つの、それも自分で言うには恥ずかしいが確かな感情があった
「……臨也さん」
「なぁに?」
「別に、いいですよ。その……したいの、なら」
「……は?」
顔を赤く染め口篭りながら呟く帝人に、臨也は酷く間抜けな返事をした
余程帝人が言った言葉が信じられないのだろう
したいのなら、いいって?
あの帝人が?
漸く思考が動き出した臨也だったが、なんと返していいのか分からず「えっと…」と言葉を濁す
「……帝人君、本気?」
「……だったらなんですか」
「えっと…どうして?」
「………」
視線を彷徨わせて言い辛そうにしていた帝人だったが、やがておずおずと漏らし始めた
「その、臨也さんが…いつもと違う恰好してるから」
「まぁたまにはね、でもそれがなんで?」
「…………だから」
他の人に、見せたくなかったんです
小さく呟いた筈の帝人の声が、やけに大きく耳に届いた
臨也は赤みがかった双眸を瞬かせ、頭で帝人の言葉を反芻する
いつもと違う恰好の俺を、他の人間に見せたくなかった
それが意味するところは―つまり、
「えーっと…これは……自惚れてもいいのかな、帝人君」
「……自惚れてればいいじゃないですか」
「………あーもう、帝人君可愛すぎ」
(全く、この子は…!)
本当にそのまま押し倒そうか考えて、直ぐにその考えは打ち消す
代わりに帝人の小さな唇に短い口付け
「ん……いざ、やさ…」
「帝人君、今日は出掛けるのはやめて、家でゆっくり過ごそうか」
「……いいんですか」
「帝人君の気持ちが最優先、それに特に行きたい場所もなかったしね」
君と一緒に過ごせるなら、どこだって構わないんだ
珍しく柔らかい笑顔で呟く臨也に帝人は始めは戸惑うも、やがて嬉しそうに幼顔を綻ばせた
それを見てまた臨也は笑みを深くする
「それじゃとりあえずお茶でもいれようか」
「あ、僕が――」
青空がどこまでも続く日の、とある二人の恋人お話