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いじめっ子

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もう夏が終わっちゃったんだね、と。朝登校してきて開口一言目がそんなだった佐藤が、ちゃっかりカーディガンを羽織ってきていて、ばっちり半袖で登校してきて寒かった俺は、
「貸せよ、」と無理矢理奪い取ってしまった。
「別にそれで鈴木が喜ぶならいいけどね」
無茶ぶりな、それこそ横暴としか呼びようのないそれを無条件で受け入れる佐藤に、俺は、なんと、(苛々している)。


「楽しいの、それ」
平介は元々暑がりだから、今日ぐらいの気候が丁度いいらしい。屋上でさわさわと髪を撫でられ俺たちは、もぐもぐと弁当を広げていた。
「うーん、鈴木は温かいんじゃない?」
佐藤の弁当は小さいエメラルドグリーンの二段箱で、本当は箱の裏に佐藤虎太郎の名前が書いてあるのを俺は知っている。
平介が3つしかない卵焼きの2つ目を奪うのを静かに箸で制止しつつ、くしゃみをひとつ、漏らす。
「あ、本当は寒いんだ」
しまったな、っていう顔をするのが佐藤はうまい。すぐ顔に出しておいて、あとからそれをなかったことにするのだ。だから俺は当たり前のように平然と佐藤の卵焼きを奪ってやった。
「俺の方が寒いから」
あ、この卵焼き砂糖入りじゃねえか。そりゃ平介が欲しがるわけだ。佐藤は俺の口に運ばれていった卵焼きを名残惜しそうに見た後、静かに瞳を伏せた。
「これはただのくしゃみー」
「まあ、佐藤って、頑丈そうだから」
あんまり心配はしてないよ、って平介結構酷いこと言うなーって笑って佐藤が突っ込んだ。
(なんだかんだ言って一番酷いのは、)(お前だ)
「ごちそうさまっ!」
急いで立ち上がった俺に平介と佐藤が慌て始める。こいつら喋ってばっかいるから食うのが遅いんだ。
風がひときは強く吹いた。ああ、これなら、確かに寒いかもしれない。そう思って横目で見た佐藤は丁度後ろ姿だった。

「珍しい色着てるのね」
平介がトイレに行った隙に、厄介な先輩に捕まった。あからさまに不機嫌そうな顔になる俺を、いいねえ、なんて言いながら彼女は嗅ぎまわる。
「君に茶色って、柄じゃないよね、まあ鈴木くんなら黒が妥当でしょう」
「……世の中イメージだけで片付きませんから」
全てを理解している割にそれをオブラートに包んで楽しんでいる風な彼女の口ぶりにはうんざりだった。平介を呼びに行く振りをして俺もトイレに入ろうとしたところで当の本人が出てきてしまった。
「へーすけ……」
俺の至極残念極まりない声に、平介の方がびびっているのだから世話ない。
「わかるのよ、好きな子ほどいじめたくなるのよねえ」
意地の悪い笑みを浮かべたときの彼女ほど美しいものはいない。そこが彼女の悪いところであり、愛すべき欠点であった。
馬鹿なことを。そう言えたらどんなに良かったか。

平介が教師に耳を引っ張られながら拉致されて、早くも30分が経過していた。ポケットに入れたままの携帯が音沙汰ないので、まだ絞られているのだろう。俺は佐藤と俺しか居なくなった教室で、ぼうっとオレンジ色の景色を眺める。校庭で走り回っているサッカー部の奴らがやたらちんけに見えておもしろい。
佐藤は窓際の棚に腰掛けて、あらぬ方向を見つめ続けていた。別に3人揃ったって違うことをする俺たちだから、佐藤と2人きりになったからって別段何かがあるわけでもなかったけど、それにしたって。(これは何だか、息苦しい……)
「それさ、あげるよ」
佐藤が不意に口を開いたので、俺はあんぐりして佐藤を見つめてしまった。佐藤の言葉の意味が暫く理解できなくて、おーい、と言われて初めてそれを咀嚼した。
「な、……んだよ、それ」
「だって、もう1着あるんだもの」
そういうと佐藤は傍らの鞄から紺色のカーディガンをもそもそと取り出した。ジャーン、と自慢げに広げて見せて、ニコニコしているのでとうとう俺は近くにあった筆箱を投げつけた。
「ふざけんなよ!」
初めから、わかっていて、俺が惨めになる様に、黙っていたなんて。(だから苛々するんだよ、)(ちくしょう!)
投げつけた筆箱を簡単にキャッチした佐藤は立ちあがって、それを元の位置に戻した。伏し目がちな目が、困ったように俺を貫く。
「駄目だよ、へーすけ泣いちゃう」
「俺は泣いてもいいのかよ……、」
「だって鈴木は俺が泣いてもいいんだろ?」
俺はすかさず固まった。
「鈴木は俺が寒いよーって言って泣いたっていいんだろ? 鈴木にも少しは慈悲ってもんがあるかなーって思って俺黙ってたんだけど、もういいや。それ、あげる」
「佐藤……」
佐藤に急に突き放されて、俺の怒りは何処かへ飛んで行った。冷たくされるとすぐに優しさを求めたくなるのはやっぱり、俺、変だからだ。
佐藤のカーディガンを無理矢理脱ぎ捨てて突き返すと、佐藤が持っていた紺色の方を肩に掛けられた。
「うん、やっぱり鈴木にはそっちが似合うよ」
「佐藤……、」
ニッコリ笑った佐藤は変わらない。
「初めからね、鈴木が寒いだろうと思って俺鈴木の分も持って登校してきてたんだ。だから、そっちが、鈴木にあげる方」
クリーム色に滲んだ教室の天井を仰いだ。それは涙が零れないようにする唯一の方法だった。
「お前が何考えてるか、わかんねえ……俺、冷たくされたくないの」
ブーブー。俺の携帯が鳴って教室に必要以上に大きな音が響いた。ポケットから取り出すとそれは平介からのメールだった。佐藤が俺の突き返したカーディガンを着る。
「知ってるよ。俺だって冷たくされたくはないもの」
ああ、苛々したのはこの所為か。俺は初めて佐藤が意地悪いということを学んだ。

平介がわかったのか、わからないのか、そういう顔をしている。
「なあんだ、持ってたのね、自分も」
「まあ、そんなとこ」
俺が答えようとしたら既に佐藤が答えていた。それに平介も目を丸くしたが、すぐにそんなことを忘れていた。
「ねえ、帰りに駅前のケーキ屋さん、寄ろうよ。虎太郎に頼まれてるんだ」
佐藤の提案に平介がぱっと飛びついたので俺の意見は無いに等しかったが、まあ良かった。
「鈴木の驕りね!」
佐藤はやはり笑っている方が似合うのだと思うから。
作品名:いじめっ子 作家名:しょうこ