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アンドロイドと涙のレコード

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(VOCALOID)(ルカとmiki)





ゴムを息で膨らましただけの玩具は、鳥のように美しくもなく空へと吸い込まれる。その瞬間は、喜びよりもむしろ喪失感の方が大きい。手を離れてしまった瞬間の悲しさ。大抵のものがいつかどこかに落ちてしまうのだ。子どものころ、無邪気にも宇宙へと届くのだと信じたのに。

「落ちるの?」
「落ちないよ」

ざわめく草っぱらに二人、立っていた。少女は風船を持っていた。赤い風船だ。てろてろと太陽を受けて光るその様を片方の少女がじっと見ている。
風を受けて頬にかかる髪が、わずらわしくて、悲しくて。

「ずっと飛んでいくんだ」
「いつか見失ってしまうのに?」
「それでもわかるよ」
「わかんないよ」

平行線上の会話を少女らは交わす。大事そうに抱えるその風船を、桃色の髪の少女はくだらないと評した。どうせ届かないのにどうしてそんなに大切にするの?と。知り得ている事実を心の底に押しとどめているばかりの姿は苦しい。

「わかるよ」

目元に滲む涙はいじらしかった。俯いた彼女の顔を赤みがかった前髪が隠してしまう。とうとう溢れだしてしまったのを、髪の隙間からしか見れなかった。ぱたぱたり、と風船に落ちた涙は音を奏でた。彼女らは音でできていた。

「いつか、きっと」

届くんだ、そう呟いた瞬間彼女は風船から手を離した。風を受けてぐんぐん空を駆け上っていく。
太陽は依然まぶしかった。それでもルカは空を仰いだ。

「届かなくても、いいじゃない」

ぽつりと呟いた。心の中にそっと置いておけばいい。そこにある喜びを噛みしめれたらそれでいい。飛んでいった事実がなにより大事なのだと彼女は思っていた。結果論である。過程はどうせ評価されないのだから。結果にしたってどうせ雲に隠されて、しまいに空に喰われてしまうのにさ。
風船を飛ばした本人は口を開けて風船を見ていた。ルカが風船を見失ってしまってからもずっとずっと見ていた。点になってしまった風船を見続けていた。ルカはいつの間にか風船よりその乾いた涙の跡を見ていた。

「最初から決めつけるのは良くないよルカちゃん」

涙に塗れた声でミキは主張した。それでも強い声だった。ルカはただただまぶしかった。胸の奥にざらざらとした音が残り、ずっとちらついたままだった。


アンドロイドと涙のレコード
(恋していたんだ、じつは。)
BGM:巡音ルカとmikiのための「雲の食卓」