被食者
右足、甲にぷくりと浮き出た青灰色の血管にまるで羽根が落ちるようにそっとくちびるで触れられる。熱い息が輪郭をなぞるように掠めて、踝に固い歯の感触。静雄の身体は全てのパーツが頑丈すぎて、触れられるだけで自分の薄い皮膚など容易に破られるのではないかと、帝人はいつもドキリとする。
小動物のように、心臓がはやい鼓動を刻む理由が。すきなひとに触れられているせいなのか、それとも、皮膚を食い破られるかもしれない怯えからなのか。とうの昔に帝人はわからなくなってしまった。ただこの高揚するような、血が煮え立つような感覚を与えてくれるのはこの人だけだと。唯一、はっきりとわかるのはただそれだけだ。
静雄の両手はいつも壊れやすい硝子細工にでも触れるように帝人を触る。俺の力は強すぎるから、感情に任せて掴んだら折っちまうだろ?そう言って笑った彼の言葉の意味は理解できる、けれど。
ずるい
逃れることなどたやすい拘束。それでも大人しく組み敷かれているという事実が、帝人の羞恥をより煽っているということを彼は理解しているのだろうか? すすんでその身を差し出しているのだといやがおうにも実感させられる。嫌ならば振り払えばいい、逃げればいいと。こちらに委ねている彼は、優しいようでずるい……ひどいひとだ。
肉の薄いふくらはぎをねぶられて。ひざ頭にちゅ、と吸い付かれて頼りない体ごと脚が揺れる。柔らかい内股に歯を立てられて肩が震えたのは怯えか、それとも期待か。
こんなふうになぶられるくらいなら。いっそひとのみでたべてくれればいいのに。