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ス.ク.ラ.イ.ド|君カズ出会い話

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光が見えた。淡い黄色の光が、うっすらと開けただけの瞼の隙間のあいだをひらひらと行き交う。 ここはどこなのだろうか。思いの他やわらかな空間だった。こんな場所俺は知らない。 久しくなかったような甘い色をした光になんだか心細くなった。こんな場所、俺は知らない。
 まず眼を開かなければいけない。ここがどこであれ、このロストグラウンドという地で、確実に安心していられる場所などないのだ。身にしみて、嫌というほど解っていたことなのに、この光はそんな決心を揺さぶるようにやわらかかった。
 瞼にぐっと力を入れあたりを見回す。ふさがった片眼のせいで狭まった視界には見慣れた家具や調度品が並んでいた。古い衣装箱に並べられたくすんだ写真立て、脚の一本足りない丸椅子、そして二番目の引き出しに俺の大事な商売道具を隠した机。間違いなくここは自分の部屋だ。
 不思議だった。やっと手に入れた自分の住処であるここでさえ、俺は一度も安らかに過ごしたことなんてないのに、どうして今こんなにも安心しきっているのだろう。――頭の芯を溶かすような甘い光だ。
 起き上がろうとして、四肢と脇腹に鈍い傷みがあることに気づいた。そうだ、昨日俺は1つの仕事を片付けたのだ。はじめての相棒、シェルブリッドのカズマ。あいつはどうなったのだろう。ボコボコになった俺を見て、心の底から驚いたような顔をしたカズマ。自分がここにいるということは、ここに運んで来たのはカズマなのかもしれない。

「おまえ、気が付いたのかよ」
ふと眼を上げると、俺の目の前に一夜限りの相棒だったはずのカズマの顔があった。 そう言ったヤツの顔は、なにやら複雑そうに歪んでいた。苛立ちと不安と困惑の混ざったような顔。 カズマはこの部屋の中でひどく不自然に見えた。あまりにも所在投げで、そしてきっと、はじめて見たときとあまりにも印象が違いすぎるせいだ。ヤツと接触を試みたときの鋭い視線も、戦闘のときのギラついた強い視線もすっかりなりを潜めて、その顔はどことなく不安げにさえ見える。変な感じだ。こいつはこんな顔もすることができるのだ。
「カズマ、ありがとな」
「なれなれしく俺を呼ぶな」
「じゃあ…カズマくん?」
「ばかにすんな!」
眉をあげて茶化すように言うと、カズマは顔をしかめて怒鳴った。 それがおかしていつまでも肩を揺らす俺に、カズマは少し安心したようだった。
「おまえ…名前なんだっけ」
少しして、カズマは躊躇いがちに俺に聞いた。おいおい、昨日言ったばかりだろうにもう忘れたのか。本当はそう言いたかったけれど、せっかく俺に興味をもってくれたのだろうカズマにそんなことは言えなかった。
「君島だよ。君島邦彦」
「…きみしま」
「そう、君島」

 それからカズマと俺は、なぜか一緒に朝食を摂った。残り少ない米と挽肉の缶詰を、カズマはこともあろうに全てたいらげてしまった。巷じゃ恐れられているカズマが食事にがっつく姿は呆れるほど子どもぽかった。誰も盗ろうとするやつなんていないってのに、ろくに噛まずに食べ物を喉に流し込む。
 カズマと俺は少しだけ話をした。あまり話のうまくないカズマが何について喋っているのかよくわからなかったけれど、断片的に聞き取れた単語で、少し前に戦ったアルター使いの話をしているのだとわかった。俺よりも2つ3つ年下だろうと思った年齢は、意外なことに1つしか違わないらしい。
 腹を満たした後、カズマは今しがた俺が寝ていたベッドに倒れこむようにして眠った。出会ったばかりの昨日一昨日のころのヤツを思い出すと、考えられないことだ。こんなにも簡単に警戒を解いていい筈がないのに、こんなにも簡単にすきを見せるやつなんてばかだと思っていたのに、俺はなぜかとても嬉しかったのだ。そう、嬉しかった。
 久しぶりのやさしい光は、やがて夕焼けの色に変わって、それでもカズマは眼を覚まさなかった。幼い寝顔をさらしたカズマは、眼が覚めたときにはまた、警戒の色を灯した眼で睨み付けてくるのだろうか。それとも安心しきった顔で俺の名前を呼ぶのだろうか。
 なぜだろう。最強なはずのシェルブリッドのカズマはときおり臆病な顔を見せる。いや、「臆病」なんて言葉ではくくれない、とても複雑な表情だ。前へ進む以外の感情を、ごちゃまぜにしたような痛々しい表情。おまえはとても強いのにカズマ、それなのに俺はおまえを守ってやろうなんて思ったんだ。バカだな。