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見とれていた

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いきなり1限が自習になったので、図書室に来ている。しばらくは、次の試験のために勉強を続けていたが、切りのいいところで、ふと、窓の外をみた。

2階に図書室のある視聴覚棟の向かいには、普通教室棟が東西に長く延びている。ふたつの棟の間には、きれいに整えられた植え込みがあり、今、その植え込みの向こうから、見知った姿が現れた。

姿勢のいい細身の体躯。急ぐでもなく歩いてくるその姿から、目が離せない。

遅れて登校してきている訳だが、別段気分が悪そうでもない。朝から、侑子さんのところに呼ばれでもしたのだろうか。

そのままあいつは、普通教室棟の正面玄関に向かって歩いてきたが、ふと足を止め、右手に持っていた学生鞄と手提げ袋を左手に持ち替えた。いつもの朝なら俺が持ってやるあの手提げ袋だ。

そして、立ち止まったまま、右手をかざして、ついと上を見上げてきた。

ぴったりと俺に視線を向けたあいつは、緩く孤を描いた美しい笑みを浮かべたあと、正面玄関の中に消えていった。
作品名:見とれていた 作家名:服部