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勤勉くんと優雅ちゃん

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 竜ヶ峰帝人の片思い歴は、長い。
 高校に進学するために池袋に出てきたころにはじまって、高校を通り過ぎて就職活動に忙しいこの時期までえんえんの片思いをしていた。
 重い。
 たぶん、それはものすごく重いのだろうと思うのだけれど、なにぶん、片思いの相手が相手だったため、親友にそのことを話すわけにもいかず、結局こんなにも溜め続けて引きずり続けて、もうだんだん帝人のなかでその恋心はほとんど体の一部分と言っても過言でないくらいになった、そんなころに、片思い相手が気まぐれを起こした一連のすったもんだの末、なんだかんだあって両想いになった。
 ……………らしい。
 実のところ、そんな目の前の現実を、帝人はこれっぽっちも信じていなかったりするのだけれど。

 帝人はSPIの問題集から顔を上げて、凝った肩を少しでもほぐそうと首をまわした。重苦しい感じが肩に残っている。しんとしずかな図書館に響かないように注意しながら、今日はもう終わりにしようと息をついた。
 帝人の、片思い相手への恋心は、飽和状態はすでに通り過ぎていて、ほとんど腐っているんじゃないかなあと思わなくもない。なんだかんだと片思いというそれ自体に慣れ親しんだ帝人は、いまさら友人関係を継続していくにあたりどうということもなく、もうほとんど悟りを開いていた。
 その結果、俺も、きみのこと好きだよ、と頬染めで言われ、あまりの嘘くささに、ほんっとにもーこのひとはしょーがないなーむっかつくー静雄さんと飲みにいってやろー、とか当てつけのように考えていた。信じろと言われ、いまさら何を信じろというのだろうと思わなくもない。このひとという人間をだろうか、と思った。答えは決まっている。無理。
 帝人と片思い相手との間には、この六年ほどの間にちょっと街の表舞台や裏舞台までひっくるめたいざこざがあったりして、ちょっと帝人としても若さが爆発していたというかいろいろとあった時期で、そんな子供と同じレベルで遊んでいる大人って正直なあと思いながら、でもけっこう大規模だったし仕方ないかなあ、と考えることにした。帝人は、片思い相手が好きだと自覚したその日から、毎日五回は、なんで自分はあのひとが好きなのだろうと自問自答し、いろいろと理屈をくっつけてみた時期もあったけれど結局、考えたところで明日も竜ヶ峰帝人はあれのことが好きなのだとわかって、あきらめることにして現在に至っている。
 ほんとに好きな相手にすきっていうときは、いくら俺だって顔くらい赤くなるってもんなんだけどね、とあの人は言った。
 なんていう信憑性のなさ、と帝人は思った。
 まあ何にしろ、あの人が自分のことを好きだと言ってくれていて、竜ヶ峰帝人もあのひとにえんえんと片思いをしていたわけなので、ここで自分がこのひとを振るのもへんな話だし、と帝人は六年来の片思い相手とつきあうことになった。
 ―――と、まあ、こんなふうだった。
 やれやれ、と固まった肩をもみほぐしていると、前の椅子が引かれて、反射的に顔を上げるといま考えていたひとがいた。つまり、現在の帝人の恋人である。
 彼は、仏頂面で帝人の目の前に座って、そう、座ったくせに話しかけろみたいな顔をして待ちの姿勢である。これは、帝人が話しかけなければいけないらしい。とりあえず帝人は、無難に、バイト先で培った愛想笑いを浮かべて、話しかけた。
「どうしたんです、臨也さん。奇遇ですね、こんにちは」
 彼は見事に機嫌を損ねた顔をして、奇遇もなにもないんじゃないの、とぼそぼそ言っている。付き合い始めてから、彼はたいていこんなふうだった。うぅむ、と帝人は考え込む。そうしたらよけいに、彼は不機嫌な顔になった。もう、唇がとんがっている。
「きょうはみかどくん、図書館にいくって言ったから、おひるでも一緒にどうかなって、思ったん、だ、け、ど」
 最後の方はもう途絶え途絶えで、聞こえるか聞こえないかくらいのかんじになっている。こんなふうな彼を見るたびに、帝人は、目の前にいるこのひとは誰だろうと考えながら、けれど結局片思い相手―――いまは、元、とくっつく―――に誘われたので、にっこりと今度は愛想でない笑いを浮かべて、答える。
「喜んで」
 そうすれば、彼の機嫌も少しは上向きになったらしく、じゃあ、行こうか、と隠しきれない喜びをにじませて立ち上がった。
 スキップでもしそうに前を歩く彼を見て、帝人はかわいいなあ、と思う。
 そのあとに、いつ、この遊びに飽きるんだろうなあ、とこっそりと考えた。
 泣いても笑ってもいたいけな高校時代からもう六年である。帝人のこころの外側にそびえ立つ壁は、存外丈夫で、高かった。
 そんな竜ヶ峰帝人の片思い相手の名は、折原臨也という。




作品名:勤勉くんと優雅ちゃん 作家名:ロク