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そうして、

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そうして、思いは擦れ違う



 貴方をお慕いしています、と言えれば良かった。
 貴方に一言お伝えしたかった。
 どうしてこんなことになってしまったのか。
 あの頃の幸せだった私に、どうして想像できたといえよう。

 貴方と繋いでいた手が離されて幾年か。
 戦う私に貴方が向けたのは、けして以前のような優しい眼差しではなかった。
 冷たい、などという言葉では生温い。徐々に占領地を広げていく私へ突き刺さったのは、あからさまな警戒の色。
 ――結局、アメリカさんと共に貴方が手を差し伸べたのは、私ではなく中国さんでしたね。
 今でもあの時の光景は忘れられず脳裏に焼きついている。
 重ならない視線。遠ざかっていく背中。届かない声。私の知らない貴方の横顔。
 思えば、あれが私の胸の内に燻っていた火をつけてしまったのだろう。
 以来、私たちは顔を合わせれば口論を重ねていった気がする。
 互いを理解するどころか、一度入った亀裂は次第に大きくなっていった。
 そうして私たちは、私の密かな思いは、遂に決裂することとなったのだ。

「日本、約束しよう。俺かお前が誰かと戦う時、必ずそれを見守り見届けると。他の奴らに邪魔なんかさせないと。そして、時には互いに協力して戦うと」
 そう言って、優しく私の手をとった貴方はもういない。
「俺がお前を守るから、お前も俺を守ってくれ」
 そう言って、微笑んでくれた貴方も、もうどこにもいない。
 突きつけられた拳銃は、迷いなく私の命を狙っている。そして私もまた、刀を抜き貴方の命を狙っていた。
「そんなに私のことがお嫌いですか、イギリスさん」
 日本語で紡がれた言葉に、イギリスさんは眉を顰めただけだった。
 異なる言語。伝わらない思い。
 ああ、どうして。私たちは何もかもが違いすぎた。
 志も文化も肌色も世界も。
 遠い。目の前にいる貴方が、私にとっては全て遠すぎる。
 きっと初めから、私と貴方が分かりあえる事などありえなかったのだ。
 出会い、言葉を交わし、手を取り合えたことの方が奇跡だったのだから。
「お慕いしておりました」
 ずっとずっと昔から。それこそ、出逢ってから直ぐに。ずっと貴方だけを思っていた。
 だからあの時、中国さんに微笑みかける貴方が憎くて堪らなかった。愛しくて愛しくて、憎たらしくて仕方がなかった。
「貴方はご存知ないでしょうけれど、私はとても貪欲的で嫉妬深いのですよ」
 口端を上げて笑う。貴方は益々眉間に皺を寄せていく。
 思いを告げれば告げるほど嫌われていくだなんて、なんて滑稽な姿なのだろう。
「いっそ貴方を私のものにしてしまえば、貴方は私を愛してくださいますか?」
 ――そんなことはありえないと、本当は誰より一番分かっているけれど。
「……言いたいことは、それだけか」
 カチャリ、と音を立てて銃の撃鉄が起こされた。
 イギリスさんの声は憎らしいほど落ち着いている。
 何を言われたのか一つも分かっていないくせ、全てを分かっているような表情だ。
 私は刀を構え直すと、目を細めて笑った。
「Yes」
 さようなら。私の愛しい人。
 恥ずかしがり屋で素直じゃなくて、けれど誰よりも優しかった貴方。
「I loved you all the time」
 小さく呟いた声は、相手に届くことなく空へと消えた。
 ああ、やはり一度だけでも伝えておくべきだった。
 今更そんなことを思っても、どうにもならないことは分かっていたけれど。どうしても思わずにはいられなかった。
「我が国、我らが同志全ての未来の為、散って頂きます」
 そしてどちらも躊躇うことなく、私は地を蹴り、貴方は引き金を引いた。

作品名:そうして、 作家名:oruba