たまには
ノックを三度、返事はない。
書類を片手にフッチは首を傾げた。通りすがりに尋ねた従騎士によると、先ほど自室へ戻ったばかりということだったが。
「すまない、失礼するよ」
もう一度だけノックをしたあと、そう声を掛けて扉を開けた。女性の部屋へ許可なく立ち入ることへの少しの罪悪感を感じながら、シャロンとて人の不在時にも関らず部屋を荒らし回っているのだから、お互い様なのだと言い訳をして。最後に、書類を届けるだけなのだとも加える。
果たしてそこには、ベッドの上で大の字になって眠る少女の姿があった。片足を床に投げ出し、腹部は露わに、ただでさえ短いスカートの裾は捲れ上がっている。
フッチは深くため息を一つ。書類を机の隅に置き、何事かをブツブツと呟きながら放り出された足をそっと持ち上げ──さすがにスカートに触れることは憚られた──ブランケットを掛け直した。
そうして一息ついたあと、何とはなしにその寝顔を見つめ、さらりと額にかかる髪を梳いた。安らかな寝息をたてて口元が僅かに笑んでいる。楽しい夢でも見ているのだろうか。
「いつもは、僕が寝ているといつの間にかシャロンが居て……何かしらイタズラしていくんだよな」
囁くように呟き、たまには僕が仕掛けてみようか、などと考えて、あとのことを思い──留まった。
(恐ろしい)(何が返ってくるか判らない)
「こうして寝ているときは天使なのだけれど」
その姿を眺めて、肩をすくめながらフッチは微笑んだ。
「──起きているときの小悪魔っぷりときたら」
額から髪へと撫ぜていた手を頬へ滑らせる。
(まあ、そこがシャロンなのだけれど)
もう一度額を撫ぜ、その滑らかな肌にくちづけを一つ。
「おやすみシャロン。良い夢を」