ienda
頭に乗せられた少し大きな手が忌々しいのは存外初めてのことで、成る程自分はこの人を煩わしく思ったことなどなかったと綾部は気づく。言葉も鬱陶しい、元々饒舌ではないし上手く伝えられなど出来はしないと考えた時には抱きついていた。小さく驚いたような声が頭の上からしてもざまあみろなど思わない、余裕はない。言いたいこともない。ありすぎてないような、本当に何もないような、何かを言いたいような何もかも言いたくないような。少し眉でも下げて笑っているならなんだか憎たらしいと思うし、好きですと、先もないのにただただ言いたくなるとも思いつつ綾部は顔を上げることはしなかった。肩に顔を埋めたまま目を閉じればよく知った匂いがした。焼けてない肌に噛みつきたかった。