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On purpose

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「オラオラ、次はどいつだァ?」
薄暗く狭い路地に、挑発的な声が響く。それに続いて、「調子に乗るなよ、ガキ!!」と男が声を荒げた。
ひょろひょろした体格の割りにすばしっこく攻撃を避け、的確に複数の男を潰していく様子が、彼が喧嘩慣れしていることを如実に表している。


暫く喧騒が続いていたが、その音もやがて一方的な暴行によって幕を閉じた。


「ケッ、他愛もねぇ。リングの力を使うまでもなかったな」
『凄い凄い!』
横に姿を現した獏良が、嬉しそうに手を叩いている。
運悪く不良に絡まれた獏良は、身体をリングの人格に明け渡してからもずっと傍で観戦していたのだ。
その様子に、バクラは眉を顰めた。

「凄いじゃねーよ。少しぐらいは、自分でなんとかしようとは思わねーのか」
『だって僕、喧嘩苦手なんだもん』
「じゃあブートキャンプにでも参加して、身体鍛えとけ」
『あれはダイエット用だよー』
宿主の屁理屈を無視して、返り血を浴びた顔を手で拭い、身体を元の持ち主へ返す。

最近やけに用心棒としての出番が多くなった気がするが、別に悪い気はしない。こうして守ってやるのも宿賃代わりだ。
それに、こうしていると盗賊として暴れ回っていた頃の血が騒ぐ。大人しく椅子に座って糞の役にも立たないお勉強をするより、よっぽど気が晴れた。

だが、いくらストレス解消になろうとも、器の身を危険に晒す訳にもいかない。万が一にもチンピラや不良に負けることなど有り得ないが、もし何かの手違いで身体が死んでしまったりしたら元も子もないのだ。ここは、きっちり釘を刺しておくべきだろう。



バクラは、鞄を拾って歩き出した獏良の前方に浮いて忠告した。

『何でこんな裏路地なんかに入り込むんだ。1人で帰る時は、もっと人通りの多い道を通れ』
「童実野町って結構広いし、まだ行ったことない場所もあるから…ちょっと探検したくて」
『宿主…正気か?お前もうそんな年じゃないだろ……』
バクラにドン引きされても、獏良はめげなかった。
「誰かさんのおかげで転校を繰り返すハメになったけど、ここに来るまで“引っ越した先の町を楽しむ”なんて余裕はなかったからね」
『………』
獏良は目を合わせずに嫌味を述べた。
気まずそうに目を逸らして、バクラは無言で空中から姿を消す。リングに引っ込んだらしい。

クスリと笑みを洩らして、獏良はリングを鞄のポケットに詰め込んだ。
ここはもう路地裏ではないから、不良に絡まれる恐れもない。それより獏良が心配なのは、あの路地一帯の勢力図がどう変化してしまうか、だった。

(ここ数日でもう壊滅しちゃったかな?まだ敵役やってくれないと、困るんだけどなー)

バクラが聞いたら確実にキレること間違いなしの呟きを心で吐いて、物憂げな美少年は帰路を急ぐのだった。





On purpose:わざと
作品名:On purpose 作家名:竹中和登