For ages
「…やっぱり僕だけじゃ無理だよ。僕の…」
『ダメだ。グダグダ言ってねーで、さっさと続けろ』
知り合いのTRPG仲間に助けてもらおうと提案する宿主をねめつけ、俺は作業の続きを促した。宿主は文句を言いたげな顔をしていたが、やがて手元の人形に着色する作業へ戻った。
ふう、と思わず溜息が漏れる。今コイツに作らせているのは、俺様の一世一代の大舞台そのもの。完成前に機嫌を損ねられては困る。
『千年アイテムの秘密が知りたいんだろ?』
そう言って、俺たちの決戦場を作らせる約束を取り付けたのだ。ここまで来て放棄されたら、俺様の計画は全て水泡に帰す。
別に強制で作らせることも可能といったら可能だが、そんな作り方ではいろいろ問題がある。時間も限られている中で、そんな不安定な選択肢は出来るだけ選びたくない。他人に作らせたり、一部でも手伝わせるなんてことも論外だ。コレは、俺様と宿主で作らなければ意味がない。
俺が予定した王との戦いは、あと1ヶ月と少し先。それまでに、なんとか宿主1人でこのジオラマを完成させなければならない。このペースでいけば、まあギリギリで間に合うだろう。
と、安心して作業を見守っていたら
「あーもう無理!やっぱりダメ!」
『あ、コラ!』
完成した人形を作業台の上に放り出して、宿主は後ろに倒れ込んだ。汚れた腕もそのままに、顔を覆って大声を上げる。
集中力が途切れたのなら多少の休憩は許すが、精巧な出来を求められる人形をぞんざいに扱うな。思わず、触れられないのに胸倉辺りを掴もうとしてしまった。
『何してんだテメー!壊れたらどうするつもりだ!』
「いいじゃない。そうなったら、どうせ僕が作り直すんだから」
『そんな暇はねーんだよ!このままじゃ予定までに出来ねーだろ!』
「何焦ってんの」
『お前には分からねーだろうがな、この作業は俺の計画の中でも最重要な…』
「ハイハイ、分かったよ。でも、少し休憩させて…お腹空いたし」
耳にタコだよ、と自室を出てキッチンへ向かった宿主に苛立ちが募る。
こんなに切羽詰った状況じゃなかったら、軽い罰ゲームでも下しているところだ。
精神のダメージで表に出られなくなったら、暫く俺が身体を持った状態で自由を満喫できる。そういえば、最近外に出てないな。
いろいろ考えていると、宿主がカップ麺片手に戻ってきた。またインスタントかよ。
『もっと身体に良いモン食え。途中で倒れられたら困るんだよ』
「誰のせいで食料調達も出来ないと思ってるの」
『…完成まで我慢しろ。これが完成したら、お前が知りたがっているアイテムの秘密も分かるんだからよ』
宿主を従わせる口説き文句を口にすれば、ラーメンを啜る音が止んだ。
宿主が変な顔をして俺を見る。
「お前はホントに鈍いね」
宿主が何かボソリと呟いた。
「それだけ長く生きてたって、全然気付かないニブチンなんだから…」
『あ?何だ?』
何となく失礼なことを言われた気がして聞き返したが、言葉は何も返って来なかった。
For ages:長い間