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鮫は考える

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あなたの為にだなんて聞こえよがしに耳心地良い言葉を吐いて、傅くように跪くのは簡単だ。青葉には青葉の目的があったから、それを果たすのを優先した上での行動にプライドが傷付くことはない。
過干渉な命令にもある程度ならば、服従の証としてのってもかまわないと思っていた。その匙加減を保つのすら、青葉の手の内のものであったのだ。
けれど案外と、ダラーズの創始者はしぶとかった。帝人を上位者と押し上げながらも足場をブルースクウェアで固め、完全に主導権をこちらが握るはずであったのに、どちらとも言えないバランスで帝人と青葉の契約が成されてしまった。
ネットという顔の見えない張りぼて世界の王様が、よもやあんな暴挙にでるとは、青葉はまったく予想していなかった。
あのボールペンを、あの救急箱を、帝人はどんな顔をして何を考えながら用意したのか。きっと帝人の平穏な日常から何一つ踏み出すことなく、朝に起きて夜に寝るような平凡さの中で浮きもせず流れていった時間のひとつなのだろう。
そう思うと、わずかに心臓が畏縮する。
間違いなくあの瞬間、手の甲を貫かれて、その貫かれた手を手当てされて、青葉は帝人に恐怖を覚えた。その記憶は、手に開いた穴が塞がりつつあっても消えはしない。
青葉は帝人を都合良く利用する為に、自分たちが帝人に忠実であるのだと疑いなく信じるような言動を繰り返す手筈であった。だが、帝人による自分たちへの刷り込みのほうが迅速で的確だった。
青葉にとっての帝人は仮初めの主であるし、ブルースクウェアにとってのダラーズは仮の宿だ。関係性に永遠はない。利用しあっているという認識が、互いにあった。
けれど、もしかしたら自分は藪をつついて蛇を出してしまったのかもしれない。
リーダーなんていうのは建て前で、見せかけだけの力関係だとそう思っているのに、最後の最後までその在りようを貫けるだろうかと危ぶむ自分もいることを、青葉は否定出来なかった。



作品名:鮫は考える 作家名:六花