迷走シスター
「…いいな、リコさんは。」
頼りなくくぐもった声は、桃井を脆く見せた。細く柔らかな肢体がかすかに強張っていることを、相田は気付いていた。
「いいなあ、テツ君といっしょ。」
悲哀と羨望と崇敬と驚喜と、ごちゃごちゃ混ざり合った瞳は綺麗な黒色をしている。
いや、桃井は眼だけでなくあらゆるパーツが綺麗だった。誠凛の監督としてではなく、ただの女子高生としての相田が憧れる姿。表情を変えると少し幼くなる雰囲気の不完全な整い具合が、よけいに桃井の少女としての美を強調する。
こんな風にと誰もが一度は望むであろう理想の自分の姿をして、桃井は相田を羨ましいと呟くのだ。
相田は、口端が歪むのを止められなかった。
相田にとって確かに黒子は大事だが、それはバスケ部の誰に対しても言えること。桃井のように特別に想う相手ではない。
けれど桃井はもはやそんなこと関係ないぐらい、黒子の傍という位置を欲して相田を羨む。
「…可哀想に。」
そう口にした声が桃井の髪色と同じくらい甘ったるくて、私も女だったのねと相田は感心した。