島原騒動
ー ガシャンッ!! ー
千鶴が襖を開け中へと入ろうとした瞬間、近くの他室から大きな物音が聞こえた。
「ふざっけんなっ!俺は客だぞ」
「お客さん、ですから申し上げてます様にあの娘は雑役ですので、お客さんの御相手は出来ないんです」
「幾らだ?」
侍風の男は懐から小判を出し、下に何枚も散撒いて見せた。
「・・・」
千鶴は襖に触れている手を止め、音の聞こえる方向に振り返る。
するとー
ー バンッ!!! ー
音と共に襖が倒れ廊下に男が姿を現した。
「たく、面倒な店だぜ」
廊下へと出た男は暫く立ち止まり周囲を見渡す。
そして、他室部屋の前に居る千鶴の姿を確認し、にやっと笑みを浮かべた。
そして、ずかずかと音を立てて千鶴へと近ずいて来る。
「お客さん困りますっ!!」
男の居た室から妓女の声が響く。
「・・・」
千鶴は喉を鳴らした。
思わず手に力が篭る。
男は一歩、また一歩近づいてくる。
千鶴はこれから起こるであろう事を考える。
この状況で、どう考えても穏便に済む筈がない事は想定出来る。
ぎゅっと唇を噛み締め男を見据えた。
覚悟を決める様に。
「おい、お鶴とか云ったな」
男は千鶴の直ぐ傍で立ち止まり不適に笑った。
「左様でございます、が。私に何か御用でしょうか」
「何気取ってんだよ、妓女の分際で」
妓女の分際ー
その言葉に千鶴は顔を顰め睨む様に見据える。
「良いからこい」
ぐいっと千鶴の腕を掴み無理矢理連れて行こうとする。
「やめ」
止めて下さい、そう千鶴が言葉にしようとした時。
「おい、嫌がってるのが解んねえのかよ」
ゆっくりと声の聞こえた方向を千鶴は見た。
そこには、見慣れた人影が立っていた。