島原騒動
「ひじかた、さん・・・」
千鶴は消え入りそうな声で囁いた。
土方は千鶴を見遣ると、千鶴の腕を徐に掴んだ。
「え・・・」
瞬間後ろの襖が開き強引に部屋の中へと押し込まれる。
後ろに尻餅をつく形で千鶴は倒れ込んでしまった。
そして再び襖は閉められてしまう。
「・・・・・・」
千鶴は訳が解らず呆然としていた。
すると外からは土方と男の声、凄い物音が聞こえて来る。
「土方さん、そんなに酒呑んでたのか?」
「さあ、でも酔ってる様にしか見えないけどね」
永倉、沖田は倒れ込みこちら側に背を向けている千鶴を見た。
「確かに、あの土方さんがわざわざ妓女(おんな)を助けるなんて天地でもひっくり返りそうだ」
原田は杯を手に苦笑している。
「にしても、この娘(こ)どうするんだよ」
「・・・」
藤堂は千鶴を指差し、斉藤は痛い程の視線を送る。
千鶴は背筋に汗が伝うのを感じた。
『どうしよう・・・』
頭の中で顔を見せるべきか格闘をする。
『土方さんは助けてくれた位だから、私の事気がついてるに決まってるし。多分?この際皆さんにもばらしても大丈夫、な訳ないよね。ああ、じゃあどうしよう・・・。今外には出れないし、でもこのままずっと背を向けたままって訳にもいかないし』
千鶴は頭を抱えて悩み続けていた。
その姿は頭を左右に動かしたり、突然立ち上がったと思い気やしゃがみ込んだりと見るからに『私悩んでます』と云わんばかりだった。
「なんか、変わった娘だね」
沖田は面白いと笑うが、原田は繭を寄せる。
「変わったと云うか、大丈夫なのか・・・」
何だか少し不気味だとも思う。
「なあなあ、ねえちゃん。取り敢えず一緒に呑もうぜ!」
「だよな、後は土方さんが何とかしてくれっから大丈夫だよ」
永倉と藤堂は呑気に千鶴を誘って来る。
千鶴は意を決して口を開いた、そして。
「あ、あの。私(わたくし)、お酒は苦手でして」
千鶴は覚悟を決め、自身の出る限り高い声で返答して見た。
声を出した瞬間自分で自分を笑いたかったし、我ながら凄いとも思う。
こんなに高い声が出るもんだななんて初めて知った。
だけど。
『ちょっと高すぎちゃった、よね・・・』
余りにも声が高過ぎて、これじゃあ只の変な娘(おんな)だ。
そして予想を裏切らず部屋の中が鎮まり返った。
顔が一気に熱くなるのを感じた。
火が出る程恥ずかしいー
と、その時。
バンっーー
音と共に襖が開いた。